クリエイターインタビュー

第2回:期待に応えるために 1フレームのこだわりとは?【BNSクリエイターを深掘り!】

BNSクリエイターたちは、「自分の開発したゲームでみんなを楽しませたい!」という熱意を持って、ゲームを開発しています。その気持ちはどこからくるのでしょうか?

この記事では、BNSクリエイターの好きなモノや出来事を通して、ゲーム開発に繋がる想いを紹介します。

※BNS・・・バンダイナムコスタジオ

第2回目は、技術スタジオ制作部ビジュアルワークスユニット所属 映像クリエイターの谷口 博昭さんにお話を伺いました。「アーティストだけどクリエイターでもある」と話すその意味とは、映像クリエイターとして大切にしていることを伺いました。

技術スタジオ制作部 ビジュアルワークスユニット所属
映像クリエイター 谷口 博昭

――― 本日はよろしくお願いします。まずは、自己紹介をお願いします。

社内で各プロジェクトの映像制作・演出行う部署に所属しています。

僕はシネマティックアーティストとして、自社タイトルのトレーラーやプロモーションビデオ、ゲームに使用されるカットシーンのカメラやプリビズ(※)作成など映像に関することをしています。

映像の中で必要な素材があれば自分でデザインすることもありますので、業務内容は多岐に渡ります。

※プリビズとは、「Pre Visualization」の略語。本番の映像を作り込む前に、全体の流れが分かるようなシミュレーション映像のこと。プリビズを使用することで、全体が把握しやすくなり、手戻りが少なくなるため、納期や予算が抑えられるそうです。

――― 仕事の中で楽しいと感じる瞬間はどんな時ですか?

自分たちがつくったものが世に出て、それに対して、ユーザーがどのように反応したのかを知る時が、楽しくもあり、やりがいを感じる瞬間でもあります。最近はSNSなどでも感想をあげるユーザーも増えているので、そういった意味ではより多くのユーザーの意見を目にする機会が増えました。

「これカッコいい!」や「カワイイ!」など、ポジティブに取り上げてくれる方々の反応を見ていると素直に嬉しいですし、テンションも上がります。次はもっと頑張ろうと思えますよね。

もちろん逆に「もうちょっとこうしてほしかった」など、ネガティブな意見もあるので、そういう時は何がいけなかったのかを考えて、次に活かすようにしています。

特に海外での反応は、日本人と比べてリアクションがとても大きく、より刺激になります。先ほども話したように、今はSNSですぐ反応が分かる時代です。発売してすぐにいろんな国の人から反応をいただけるのは、大きなやりがいだと感じています。

こんなにユーザーの反応がダイレクトに伝わってくるのは、ゲーム業界ならではの醍醐味なのではないでしょうか。

前職の映像制作会社の時は、CMやイベント映像を制作しても、観た人から「この部分が良かった!」と映像についてフィードバックを貰うことは少なかったと思います。ですが、ゲーム業界だと映像自体に対して感想をいただけることが多いように感じます。

――― 今まで印象に残っているエピソードはありますか?

踊るキャラクターに合わせてカメラの動きを付ける業務が印象に残っています。音楽に合わせてキャラクターのカット割りを考えるのですが、どこから狙うとキャラクターが一番魅力的に見えるかを徹底的にこだわり抜いたカメラワークになっています。

このプロジェクトに配属された時は、まだカメラ知識の浅かった時期だったのですが、同じ部署の先輩3名のテクニックとこだわりがとてもすごくて。先輩たちから丁寧に教えてもらいながらカメラワークについて勉強させていただきました。

このプロジェクトでは「カットのタイミングが1フレーム遅い」「そもそも、このカットは必要?」と1フレーム単位で調整して作られます。そのかいあって、「1曲を通して、どのフレームで停止して見ても必ず絵になっている」と思えるところまで追求することができました。

この経験は、他プロジェクトのカメラ演出時にもとても役に立っています。当時の先輩方には、この場を借りてお礼を申し上げたいですね!

――― すごくこだわって作られているのですね!

他にも、カットごとにレンズの画角にも気を配っているんですよ!

例えば、背景全体が映るように俯瞰する時は広角レンズを使って広く奥行き感を演出しますが、アップで写す時には、顔が歪まないように望遠の画角にしています。各クリエイターが工夫を凝らして、どんな瞬間でもキャラクターをかわいく見えるように演出しているんです。

また、しっとりした音楽ではカメラもゆっくり動いたり、アップテンポの音楽ではカメラの動きもハードで、カットの切り替えも素早く制作しています。

ここまでこだわっているので、どのコマで止めてもキャラクターが魅力的な姿で写っています!

そうしてこだわりぬいた映像が世に出た時には、「このカメラワークかっこいい!」や「最高!」など多くの意見をSNSで見ることができて嬉しかったです。

――― しんどいなと感じる瞬間はありますか?

最適な答えが見つからない時ですかね。

映像制作において、伝えたいメッセージをユーザーに届ける演出の答えは1つではありません。

「カメラのアングルはどこから狙うのが効果的?」「尺はどのくらいが最適?」「CGはアニメ調かリアル調、どちらが雰囲気合う?」「そもそもこのカットは必要?」などなど、日々悩んでは取捨選択する場面もたくさんあります。

無数の選択肢がある中で、予算やスケジュールを考慮しつつ最適な手法を考えます。ここでズバッと答えが見つかる時は良いのですが、うまく見つからない時は沼にハマります。ここが一番苦しい瞬間ですね。

「しっくりこない、これじゃない感」こういった部分は見ているユーザーにも見抜かれてしまいます。この答えが見つからない時がつらい瞬間です。

なので、こういうことはなるべく避けられるよう、演出の引き出しの数は多く持つように心掛けています。その引き出しの中身は、必ずしも映像に関係しているとは限らないです。日常や趣味など、何気ないところから見つかることもあります。日々を過ごすにあたって常にアンテナを張っておく、いろんなことを体験する、それが大切なのかもしれません。

なんだか、きっとこの体験談を見た人は「悩む部分が多いなぁ」と見えてしまうかもしれませんが、これらの苦悩も含めてとても楽しい部分でもあります!

――― 業務を進めていくうえで、心掛けている点はありますか?

カメラやライティングなど映像制作においては、基本的なことが一番大切だと思っています。どんなに複雑な制作でも、基本の延長線と考えて制作しています。

いろんな技術が進化しても、ベースとなる知識は一緒です。CGだけ作っているから実写のカメラの知識は必要ないというものでもなく、カメラの知識があるからこそ、もっと魅力的にみせることが可能だったりもします。

あと、これだけは忘れるなということで、よく先輩や上司から言われるのは、「納期は絶対!忘れちゃいけないビジネス心」です。

これは、世の中的に言われている「アーティスト」と「クリエイター」の違いのひとつでもあります。

モノづくりをしていると、どうしてももっと良くしようと、時間を考えずに作り続けてしまうこともあります。言い換えてしまえば、ブラッシュアップをしようと思ったら、永遠に作り続けることが可能です。

しかし、ある日先輩に言われて気付きました。

「時間や予算をかければ、良いものが出来るのは当たり前だが、私達は“クリエイター”。“アーティスト”の要素もありながら“ビジネス”の面も持ち合わせている。限られた条件の中で、最大限に良いものを作ることを心掛けて」と。費用対効果というものですね。

この部分に縛られ過ぎるのも良くないのですが、バランスを取りながら最大限良いものを作ることを心掛けています。

――― なかなか耳が痛いです。

いや、なかなかできる人が少ないからこそ、言われているのでしょう。だから、逆にここを意識するだけでも、他の人と自分を差別化することもできるのではないでしょうか。クリエイターに大切なのは、実はビジネス的なマインドもあるのかもしれません。

―――これだけは自信がある! といったことはありますか?

「いい感じに」を形にすることは割と得意です。この曖昧な言葉「いい感じに」はクリエイターの方なら必ず聞いたことがあると思います(笑)

「この部分いい感じにして欲しい」「いい感じになっていれば大丈夫」と言われて、「ん?いい感じ?どんな感じ?」と毎回考えてしまいます。この答えは人それぞれなので、シンプルに難しいですね。

この答えとして、「作品の世界観を読み解き、相手が思い描いていることを形にしてあげる」ことが大切だと考えています。

前職では、多種多様なクライアントを相手に、全て自分でヒアリングから提案、制作まで行う必要があったため、このあたりかなり鍛えられた気がします(笑)

今後、もっと伸ばしたいこととしては、「ナラティブデザイン」というデザイン思考があります。ひとことで説明するのは、とても難しい考え方ですが、ゲームをプレイした人がそのプレイ体験を個人的なストーリーとして感じ取れるようなアプローチを指しています。自分の業務に当てはめると、いかにしてユーザーが引き込まれる展開を映像含めて演出できるか、ということでしょうか。

――― 最後に座右の銘を教えていただけないでしょうか?

「終わり良ければ全て良し」

普段の仕事は、どれも大きなタイトルでやりがいもあるため楽しく働かせてもらっています。ただ、楽しいことばかりではなく、もちろん辛い時もあります。

アイディアが出ない。解決方法が見つからない。なんかいい感じにならない。ただ、どんなに辛かったとしても、最終的にユーザーの喜ぶ声を聞くとそんなことは全く忘れています!

まさに「終わり良ければ全て良し」の心を大事にしています。

―――  ユーザーが楽しんでくれることが一番のやりがいですね! 谷口さん、ありがとうございました。

 

前回『第1回:インディーゲーム開発を通して気付いたことは?』はこちらから!

 

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