クリエイターインタビュー

第3回:サウンドで感情を表現するため、環境音までこだわる理由とは?【BNSクリエイターを深掘り!】

バンダイナムコスタジオのクリエイターたちは、「自分の開発したゲームでみんなを楽しませたい!」という熱意を持って、ゲームを開発しています。その気持ちはどこからくるのでしょうか?

この記事では、弊社のクリエイターの好きなモノや出来事を通して、ゲーム開発に繋がる想いを紹介します。

※以降の文中では、バンダイナムコスタジオをBNSと省略表記を用います。

第3回目は、技術スタジオ制作部サウンドユニット所属サウンドクリエイターの倉持 啓伍さんにお話を伺いました。主人公の心情を表現したり、プレイヤーの感情を盛り上げるために、様々なこだわりを持ってサウンド制作をしているとのこと。また、クリエイターとして、会社で働く一員として、大切にしていることも伺いました。

技術スタジオ 制作部
サウンドユニット所属
サウンドクリエイター 倉持 啓伍

――― 本日はよろしくお願いします。倉持さんはどんな業務を担当されているのでしょうか?


様々なプロジェクトのサウンドを制作するチームに所属しています。主に、サウンドディレクション、アセット制作(効果音・BGM)、実装に加え、新人研修のインストラクターなどを担当しています。

サウンドディレクションとは、「今回のサウンドのコンセプトはこうしよう」と決めたり、予算の確保、人員のアサイン、制作スケジュールを定めたりするのが主な業務です。また、ゲーム内にどんな音が必要かを検討・提案したり、制作した音を鳴らすタイミングを決めたりするのも仕事です。

実装とは、決められた仕様に従って、ゲーム中の各場面に音を組みこむ作業です。例えば、「Aボタンを押したら特定の効果音が鳴る」というようなことをプログラムとして当てはめていきます。

逆に「鳴るはずの音が鳴らない」という場合もあります。デバッガー(ゲームのバグを確認する職種)から来たテスト結果を元に、原因を探ったり、バグを潰していくのも実装作業のひとつになります。

――― サウンドクリエイターは、かっこいい音を作るだけじゃないんですね

そうですね、かっこいい音をつくるのも仕事ですが、その音を一番かっこよく聞かせるにはどうしたら良いかを考えるのもお仕事です。

すごくかっこいい音でも、鳴らすタイミングがちぐはぐだと魅力も半減しちゃいますよね。演出の部分、音量の調整、ちゃんと意図した音が鳴っているか、まで責任を持つのがサウンド制作チームの役割です。

――― 音のタイミングはわかりますが、音量なども重要な要素なのでしょうか?

音量の調整もすごく重要です。

分かりやすい例として、アニメで主人公の意思を表明したい時は、意図的にBGMや効果音を小さくして、主人公のボイスを際立たせるといった演出がありますが、実はゲームでも同じように、リアルタイムに表現したいことに合わせて、どの音を前に出すかを決めています。

――― 音に関わる演出はすべて担当する!という感じですね。

開発プロジェクトが目指している演出があるときに、その背景を噛み砕きながら、「音ではこういう表現や手段を取るといいよ」と提案するのが大きな役割です。開発プロジェクトがやりたいことを音で具現化すること、そして、相手の期待を超えていくことを目標にしています。

――― なにか印象深いエピソードはありますか?

VR筐体で遊べる施設の『VR ZONE』の開発が印象に残っています。『ホラー実体験室 脱出病棟Ω』というVRアクティビティでは、キャラクターが次々に人を襲い、プレイヤー自身にも襲いかからんとする、鬼気迫るシーンがあるのですが、スケジュールに余裕がなかったため、その時の効果音は自分が本当にワーッと焦っている気持ちが反映されていて、逆に良い音になったんじゃないでしょうか(笑)

一般的な開発の流れでは、映像などすべて作り終えた後の最終段階で音を当てはめていきます。もちろん納期は決まっているので、サウンド工程の遅れは納期の遅れに直結してしまいます。そのため、余裕を持って制作できるように、前工程のスケジュールを把握しておいたり、トラブルで遅れたとしても問題ないように事前準備をしておいたり、というのを考えておく必要があります。

「ホラー実体験室 脱出病棟Ω」では、直前まで開発スケジュールに変更があり、ギリギリだったのですが、なんとか納期に間に合わせることができました。トラブルは起きるものと想定して、対応していくことが大切だとしみじみ感じました(笑)

また、プレイヤーを怖がらせるための工夫として、プレイヤーの感情を音で盛り上げるために、感情曲線を意識したデザインもしています。ホラー映画によくあるシーンとして、ある部屋に入って、嫌な予感がして振り向いて、でもなにも無くてほっとしたタイミングで突然お化けが出てくる、というシーンがあります。この、一瞬緊張してから安心したあとに不意打ちで驚かす、みたいな流れを音で作るのが狙いとしてありました。感情曲線を意識しての製作がうまくいったかなと思える事例でした。

その他、プレイ中に流す環境音も工夫しています。人が怖いと思う音にはいくつか種類があるそうです。例えば赤ちゃんの泣き声やナイフで瓶をこする音、フォークでガラスをこする音、チョークでこする音、電気ドリルの音、ホラー映画で良く使われるウォーターフォンという楽器が当てはまります。これらの音などを混ぜて、環境音を作りました。

裏話としては、19Hzという低い周波数を鳴らすと幽霊が見えるといわれていて、その音域はヘッドホンからは再生できないはずの音域ですが、あえて仕込みました(笑)

環境音繋がりでいえば、『ガンダムVR ダイバ強襲』というVRアクティビティも、音にこだわったタイトルでした。お台場の実物大ガンダム立像を舞台にしたVRアクティビティで、ガンダムの手のひらに乗って、攻撃してくるザクとの対戦が体験できるのが特徴です。

プレイ中にガンダム立像の前に立っている時の環境音は、バイノーラルマイクを使って録りました。バイノーラルマイクとは、実際に人間の耳で聴いたかのような状態を再現するために、左右の耳の位置からそれぞれ別のマイクで収録できる機材です。すごく臨場感がある録音方法で、本当にその場にいるかのような立体感のある音が収録できます。この時は、VR空間と同じシチュエーションを再現するために、実際にお台場のガンダム立像の前まで足を運び、イヤホン型のバイノーラルマイクで録音しました。

人がいる時間帯だと、人の声や足音が入ってしまうので、朝4時くらいの静かな時間帯に実施しました。それでも、自然な音を収録するのが難しかったです。たまに、飛行機のエンジン音が入ったり、通行人がスーツケースを引く音などが入ってしまい、何度か録音をやり直さないといけなかったため、結構時間が掛かりましたね(笑)

もちろん有り合わせの音を組み合わせて、音を作ることもありますが、製品のコンセプトや「これは大事な音だからちゃんと録ろう」と自分が決めたものに対しては、手間をかけても実際の音を取りに行くようにしています。このゲームにおいてもコンテンツに付加価値を与え、コンセプトにマッチすると思えたので挑戦してみました。

――― 話題は変わりますが、働くにあたって譲れない「自分ルール」はありますか?

取り組む前にその仕事の目的を確認しクリアにさせることでしょうか。なんでその仕事をやる必要があるのか、その仕事をやったら何ができるのか、何が解決するのかをちゃんと意識して作業に入ることが大切だと思います。

単に言われたからやるみたいなことはせず、やる必要があるかというのを精査した上で、その手段よりももっと良い方法や提案がないかを確認します。

目的を自分の中でしっかり確認するだけでも大きく変わると思います。この仕事をしたらどういうことが起こるのだろうということを常に考えるようにしています。

また、個人としてだけでなくチームとしてアウトプットの質を上げるにはどうした良いか?を大切にしています。

―――なるほど。チームとしてアウトプットの質を上げるにあたって具体的にはどんなことを心がけていますか?

一緒に働いている人が考えていることを汲み取って行動することでしょうか。「働く」というのは、「傍を楽にする」という意味があるらしいのです。だから一緒に働いている人が助かるなと思うようなことを先回りしてやることが大切だと思っています。

それから、再び一緒に働きたいと言われる人になりたいと思っています。良いものを作ることはすごく大事です。皆良いものを作るために仕事をしているのですが、人によって良いものの基準というのは様々だと思います。

自分の「こうしたい」という考えに固執しすぎずまずはプロジェクトやチームの目指していることを理解し、それを具現化することに注力することが大事だと思います。

そして、プロジェクトのやりたいことを自分の中に落とし込み仕事に励んでいると、ある日自分の意見を求められる瞬間がきます。「倉持くんはどうしたい?」と。

実は、自分の意見がなかなか通らず、悩んでいた時期がありました。そんな時に上司から「まずは相手の要望を叶えることに徹してみたら?」と言われ、黒子に徹していたら、いつの間にか意見を求められるようになり、自分の提案が通る回数が増えました。この経験から、まずは相手の信頼を得ることが大切だということに気付きました。

―――― 最後に、座右の銘はありますか?

所謂「座右の銘」というのは特に無いのですが、先程の話の中で「まずは相手の要望を叶えることに徹してみたら?」という言葉は仕事をする上で常に意識するようになりました。その時に言ってもらったことを自分なりに解釈し、日々の仕事の中で実戦していくことで、言葉の意味が深まり、今では働く上で基本となる価値観になりました。

「相手の要望を叶えることに徹する」というのは、「ただ支持されたとおりに仕事をする」という受け身の姿勢ではなく、「相手を信頼し、目的を理解した上で、それを具現化するために全力を出す、また相手の要望の延長にある更に良いものを提案する」という非常に能動的な姿勢だと考えています。

自分が周囲の人を信頼して仕事をすることでBNSとして良いものを作り、コンテンツによってBNSはユーザーから信頼される。こういうことに少しでも貢献したいと思っています。

―――― ありがとうございました!

前回『第2回:期待に応えるために 1フレームのこだわりとは?』はこちらから!

 

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