クリエイターインタビュー

クリエイターインタビュー

音楽で感情を揺さぶる。“良い楽曲”を作るだけではない、サウンドクリエイターのこだわりとは?

バンダイナムコスタジオのクリエイターたちは、「自分の開発したゲームでみんなを楽しませたい!」という熱意を持って、ゲームを開発しています。その気持ちはどこからくるのでしょうか?この記事では、弊社のクリエイターの好きなモノや出来事を通して、ゲーム開発に繋がる想いを紹介します。 今回は、サウンドクリエイターである大澤 めいさんにお話を伺いました!

大澤めい

サウンドクリエイター 大澤 めい

サウンドクリエイターを目指した経緯

―まずは現在の所属と業務内容を教えてください

テックスタジオのサウンド部に所属しています。
現在は、主に「学園アイドルマスター」で音楽プロデュースとディレクションを行っており、ライブの音楽監督などもやらせていただいています。
また、その他のコンテンツにおいても、サウンドクリエイターとして楽曲制作に携わっています。

―どのような経緯でサウンドクリエイターになったのでしょうか?

両親が音楽関連の仕事をしており、その影響で小さいころからピアノを弾いていました。また、いわゆる”ドラマっ子”だったので、中学生の頃には漠然と映画やドラマに関わる仕事がしてみたいなと思っており、大学進学の際は、映画制作が学べるような学校へ進むか、好きな音楽を生かして劇伴作家としてドラマの音楽を制作する道に進むかで悩んでいました。
結果としては、音大の作曲科を目指すことにしました。

―音楽以外に映画やドラマなど、他のエンターテインメントにも興味があったのですね

はい。大学生の頃はバンドにもハマり、軽音部に入りました。他大学のバンドサークルに入ってライブを運営したり、三年間同じバンドメンバーで活動してパフォーマンスをしたりしていました。
その時に、自分は作家としてずっと籠って音楽を作り続ける性分ではなくて、自分の広い音楽分野を使って様々な人と関わったり、一緒に一つのものを作ったり、そういった活動の過程や達成感に楽しみを感じる性分なのだなということに気付きました。

また、中学生の頃からゲームも好きだったので、ゲームやアニメ業界も視野に入れました。調べていくうちに、ゲーム会社で音を作りながらコンテンツにも携われる会社があるというのを知って、ドアを叩いてみたという感じです。

―ゲーム業界を目指すにあたってなにか挑戦したことなどあったのですか?

バンダイナムコスタジオには作曲志望で応募したのですが、仕事内容としては効果音も作るし、ディレクションも行うとのことだったので、ゲームや映画を観る際、「ここでこういう音が鳴っているんだ」というのを改めてしっかり意識して観るようにしました。
あとは、もう実際に効果音を作ってみるという事をしました。独学だったのですが、大学3年生くらいから少しずつ始めてみました。

―独学での挑戦もあったのですね。ちなみに、授業ではどのようなことを学ばれていたのでしょうか?

印象的だった授業は、ソウルの名曲を題材に、1年かけて自分の好きなジャンルにアレンジし、楽器や歌の収録までをやりきるという内容のものです。
その時に初めてレコーディングスタジオに座って指示をする”ディレクション作業”を行ったのですが、それが結構面白くて…!振り返ると、今の仕事に生きている部分でもあるなと思います。
なので、大学の授業でも学びつつ、独学でも補っていたという感じですね。

大澤めい

印象に残っている仕事 ―ユーザーと共に創り上げる体験・ライブで体感した現場の熱量―

―今までの仕事で一番印象深いものは何ですか?

ひとつは「ヴイアライヴ」でのお仕事です。
候補生たちがアイドルとしてデビューを目指すという企画の中で、初のオリジナル曲を作ってほしいとオファーをいただきました。
楽曲を作るにあたって、普通は全部出来上がってから納品という形になるのですが、「ヴイアライヴ」はプロデューサーさん(ユーザーの方)と一緒に創り上げていくというコンテンツなので、最初に自分の仮歌が入っているようなデモを配信で公開して聞いてもらったり、最終的にプロデューサーさんにどういうタイトルが良いかを聞いたり…そういったやり取りの中で進んでいきました。
「一緒に創る」という体験がとても斬新で面白く感じました。

―なるほど、とても魅力的ですね。他にも何かエピソードはありますか?

もうひとつは主にゲームではなくライブ関係の話になるのですが、「歌割り」についてお話ししたいと思います。

アイドルグループなど、歌手が複数人いて誰がどこを歌うのか決めることを、「歌い分け」とか「歌割り」と言います。その歌割りに関して、ライブで実際にお客様が「沸く歌割り」と「沸かない歌割り」があるなと最近気づきまして…(笑)
とはいえ、歌割りに正解は無いので、どこをどうしたらライブで盛り上がるかというのは、やはり実際にライブ会場に行って熱量を体感しないとわからないと感じました。
例えば、展開が忙しすぎるものだと、お客様がついてこられなかったり、途中で歓声が沸いた時に次のセリフと被って聞こえづらくなったりします。そういったことは実際にお客様がいないとわからないことでした。

「ここのパートはすごく目立つから、次のパートは全員が歌うようにして少し安定させよう」とか、ライブで体感したことをもとに調整を行った経験は最近の仕事の中でも印象に残っています。

―やはり、学生の頃の曲の作り方とは違いますか?

そうですね、全然違います。授業での作曲だと音楽を主軸に考えるので、曲が破綻していないかとか、いかに良いアレンジか、良いメロディーか、といったところを重要視するのですが、お客様に伝えるものとなると、やはり優先すべきことが変わってきますね。
いかに強い印象を与えるかが勝負かなと思っています。

大澤めい

作曲のこだわりと制作スタイル

―作曲をするにあたり、普段参考にしているものはありますか?

女性アイドルだけでなく、男性アイドルの曲もよく聞いています。また、日本だけでなく海外、特にK-POPなども聞くようにしています。K-POPは掛け声の文化が盛んなので、その抑揚などを参考にしたり、ラッパーやボーカルが分かれていたりするので、役割配分を参考にしたりしています。
あとは、ジャンルを問わず再生数が多いMVなども見るようにしています。
作るのはゲームの曲ですが、やはりそういった音楽や演出の流行なども普段から意識するようにしています。

―様々なところからインプットされているのですね。
―では、サウンドを作るうえでの大澤さんなりの「こだわり」は何でしょうか?

コンポーズ面(作曲面)とディレクション面に分けてお話させていただこうと思います。

まずコンポーズ面に関して、大学の時から大事にしているのは「メロディーにこだわる」という事です。
特に私が作曲するときに意識しているのは、歌詞を乗せた時にできるだけ自然にイントネーションが入ってくるメロディー作りです。

例えば、「大澤めい」を「おおさわめ↓い↑(「め」が低い)」というメロディーにするとあまり心に響かないのですが、「おおさわめ↑い↓(「め」が高い)」のようにイントネーションと合うメロディーにすると心にすっと入ってくるような印象になります。
また、メッセージ性の強い歌詞を一番劇的なメロディーのところに乗せるといったことも意識しています。

―曲を作るときは歌詞も一緒に考えているのですか?

携わるプロジェクトによっても異なるのですが、歌詞を自分で考えることもあります。
自分で歌詞を考えない場合も、基本的には仮の歌詞や仮の言葉を当てはめて、そのイントネーションに合うように作っていきます。
私がよく行う流れとしては、大きいテーマを決めた後に、作曲と歌詞を同時並行で詰めていき、最後に全体を整えるといった感じですね。人によってやり方が違いますが、私は歌詞と曲を同時に考えるタイプなので、ちょっと珍しいかもしれません。

大澤めい

―ありがとうございます。ではもう一つ、「ディレクション面」ではどのようなこだわりがあるのでしょうか?

“やりすぎてみる”という事を大事にしています。
例えば、声優さんのボーカルディレクション(歌の収録)をするときに、「まずはちょっとやりすぎかなと思うくらいまで表現してください」とお願いしています。歌っている方からすると「こんなに表現をつけていいの!?」と思っても、最終的な仕上がりをイメージした時にもっと表現が欲しいことがあるので、目一杯表現していただき、本当にやりすぎだったら徐々に調整していくという感じで進めています。

また、作家さんやアーティストさんに楽曲を発注することもあるのですが、その際は「アイドルやゲーム、アニメコンテンツという枠は一旦忘れて作ってください」とお伝えしています。どうしても固定概念があると小さくまとまった曲になってしまいがちなので、まずはその枠を取っ払ってもらいたい、やりすぎてもらいたい、と伝えるようにしています。

―楽曲制作から収録などのディレクションまで、業務の幅が広いと考えなくてはならないことが多くありそうですね。

はい。例えば、以前から良いなと思っていたアーティストさんがいたのですが、その方の音楽がすごくハマりそうなアイドルがいて…。でも、そのアイドルが普段得意としているジャンルは異なるタイプの音楽なんです。それでも、そのアイドルの表現の幅を広げていくためには、新しいジャンルに挑戦することが必要だと思い、「この組み合わせは絶対良いアプローチになる」という思いのもと、各所に相談して実際にそのアーティストさんにオファーさせていただいたという事もありました。

ただ「良い曲」を作るだけでなく、「この楽曲がアイドル自身にどんな価値をもたらすか」「アイドルを愛してくれているお客様にどうすれば喜んでもらえるか」といったところまで想像しながら楽曲提案、制作を行っています。

やりがいと今後のチャレンジ

―仕事をしていてやりがいを感じるのはどんな時ですか?

まず一番は、自分の名前がエンドクレジットに載った時にやりがいを感じました。
中学の時にどうして映画やドラマの方面に行きたいと思ったかというと、作りたいという気持ちはもちろんあったのですが、「エンドクレジットに名前が載るのってかっこいいな!」という思いがすごくありまして…。
音楽の道に進むと決めてからも、エンドクレジットに載る事への憧れはずっと持っており、その思いは変わらずやりがいになっています。

―エンドクレジットに載るというのは、やはり達成感に繋がりますよね

そうですね。一方で、誇らしいという達成感だけでなく、責任感も非常に感じています。
やはり何かあった際に評価や批判などを受けやすいのは名前が載っている人なので、以前は名前が載る事に少々不安感もありました。
今では単にプレッシャーだけではなく、作ったことに対する責任感としてポジティブに捉えられるようになりました。

―その他にも、最近やりがいを感じた瞬間はありますか?

自分が手掛けた楽曲がライブで歌唱され、そこに照明や演出が重なることで相乗効果が生まれ、お客様から歓声や拍手といった熱い反応をいただけました。その瞬間、何にも代えがたい達成感を感じることが出来ました。
イントロが流れて「ここでこの曲が来たか!」っていう時の会場の大きな歓声など、お客様と舞台の熱量を肌で感じて、とても感動しましたね。

大澤めい

―今後チャレンジしてみたい事、抱負などはありますか?

少し抽象的な言い方にはなってしまうのですが、私は多くの人の“癖(へき)”を作りたいと思っています。
私自身、様々なアイドルやアニメコンテンツが好きなのですが、その中で一番気持ちが高まる瞬間は、「えっ、こんなことするの?」というようなギャップをキャラクターに感じたときだと思っています。もっと言えば、それまであまり興味がなかったキャラクターであっても、その一瞬のギャップで一気に好きになってしまうことがあって、私はそれこそが“癖”の力だと感じています。
誰かが沼にハマるきっかけを作りたいですね。

ただ、それは同時にリスクも伴います。
生身の人間であれば、その人が実際にやること自体が正解になりますが、コンテンツを作る側としては「このキャラにこんなことをさせるなんて」、「私の推しにこういうことをさせるのは解釈不一致だ」といった意見が生まれる可能性もあるからです。

なので、長くやっているコンテンツであるほどそういった”攻めたチャレンジ”は敬遠されがちになるのですが、それでも私は、大きな印象を与え人の心に残るきっかけになるのは、そういう挑戦だと思っています。攻めることを変に避けず、キャラクターやコンテンツの新たな魅力を作り出していきたいと考えています。

―最後に、座右の銘をお願いします!

「好きのアンテナを八方に」です。
私はもともと興味を持つ分野の幅が広い一方で、ひとつのことに長く集中するのがあまり得意ではなく、やや飽きっぽい性格だと思っています。
ただ、だからこそこれまでの人生で本当に色々なものに興味を持ち、幅広く触れてきたという自負があります。この「好きのアンテナを八方に」という言葉は、そんな自分の姿勢そのものでもあります。

人やモノに対して、苦手な部分や好きになれない一面は誰にでもあると思います。でも、そこで「これは無理」と切り捨ててしまうのではなく、好きになれる部分や尊重できる部分を探すようにしています。
それが私の座右の銘であり、自分の生き方、クリエイターとしての姿勢であると思っています。

―ありがとうございました!

前回「常に疑問を持つ!テクニカルアーティスト(TA)が語る大切な3つのルールとは?」はこちら

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