インタビュー

『SCARLET NEXUS(スカーレットネクサス)』ができるまで(後編)

ⒸSCARLET NEXUS™ & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

バンダイナムコスタジオ発のオリジナルIPとして開発がスタートし、2021年6月にXbox Series X|S(※1)、Xbox One(※2)、PlayStation5(※3)、PlayStation4(※4)、STEAM(※5)で発売された『SCARLET NEXUS(スカーレットネクサス)』。
開発エピソード第12弾ではブレインパンク・アクションRPGと銘打たれ、意欲的な試みが数多く盛り込まれた本作。『SCARLET NEXUS』ができるまで(前編)では、制作のきっかけや本作ならではの愉しさ、苦悩についてお伝えしました。後編では、次世代機リリースやコロナ禍での開発エピソードをお伝えしていきます。
なお、座談会は前編に続きZoomによるオンライン形式で実施されました。(2021年9月収録)


『SCARLET NEXUS』の開発を担当するプロジェクトメンバー

穴吹 健児 ゲームデザイナー/『SCARLET NEXUS』開発プロデューサー兼ディレクター
落合 功多 アーティスト/『SCARLET NEXUS』アートディレクター
猪ノ木 麻奈 ゲームデザイナー/『SCARLET NEXUS』シナリオディレクター
青松 正二 エンジニア/『SCARLET NEXUS』テクニカルディレクター
東 毅之 プロジェクトマネージャー/『SCARLET NEXUS』アートマネージャー、プロジェクトマネージャー

 

次世代機への挑戦と知見の継承

●穴吹 健児(あなぶき けんじ)
ゲームデザイナー
『SCARLET NEXUS』開発プロデューサー兼ディレクター

■穴吹:次世代機でもリリースすることが決まったのっていつ頃でしたっけ?

●東:開発の本制作が始まってからです。

■穴吹:企画立ち上げ時はXbox Series X|S、PlayStation5(以下、PS5)は影も形もありませんでした。開発が進んでいく中で、次世代機の存在を感じるようになった時に「やっぱり新しい IP だから多くの人に遊んでもらいたい」という考えから対応することにしました。

●青松 正二(あおまつ しょうじ)
エンジニア
『SCARLET NEXUS』テクニカルディレクター

●青松:始まりは次世代機へ移植できるのかの検証でした。ゲーム自体はすでにだいぶ出来上がっていた状態で次世代機版の開発が始まったのですが、次世代機の基礎研究からゲームの仕上げまでを短期間で対応させないといけなかったので、スケジュールはだいぶタイトでした。
なかでも期間内に、現世代機と次世代機、どちらも満足できるようにチューニングするのも大変でした。現世代機と次世代機では、ゲームプレイ中に処理が重くなるポイントが違いますので、両方でうまく動くようにしたうえで、全体を底上げする調整をかけました。

●東:本作は開発期間を最初からカウントすると2015年の4月ぐらいからになるので、6年強作っている計算になります。社内で技術研究として試作を開始し、第1評価版が形になるまでに、だいたい2年ぐらいかかっています。そして第2評価版から本制作までは、株式会社トーセさんと共同で制作。次世代機への対応は本制作に入った後に始まりました。

ⒸSCARLET NEXUS™ & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

●青松:現世代機で目指すべき発売時期を考えて、本当にこの期間で次世代機対応できるかという検証からのスタートでした。次世代機への移植を行い始めて2ヶ月である程度動くと判断できGOサインを取りました。
次世代機は発表されても開発への情報開示はすぐにはじまりません。初期はプラットフォーマーと連携するのはもちろん、Unreal® Engine4(※6)を使用していたので、 Epic Games さんとも密に打ち合わせをしました。

●東 毅之(あずま たけし)
プロジェクトマネージャー
『SCARLET NEXUS』アートマネージャー、プロジェクトマネージャー

●東: 次世代機の機能が Unreal® Engine のバージョンアップに、どのタイミングで対応されるのか、その上で我々がどの機能を取り込むのか……やりたい事が実現できるのか手探りで挑戦するのは大変でした。

●青松:あとは我々だけの開発スケジュールだけじゃなく、プラットフォーマーのスケジュールもゲームが完成するまでの時間にモロに影響を受けてしまうので、スケジュールは柔軟に組みました。もしプラットフォーマーの対応が遅れたら、〇月〇日の時点で判断してスケジュールを臨機応変に変化させる……みたいな感じで。開発スケジュールをプランA、プランBと複数制作。最大限に希望を実現するために、普通では行わないスケジュールの組み方をしました。

■穴吹:次世代機は、『これは秘密』という情報が色々存在します。同じ会社内でも人によって開示できる情報の範囲に差があるので情報の取り扱いが大変でした。

●落合:しかし、そうした次世代機対応の技術は可能な範囲で社内共有して色々なゲームに役立てています。

●青松:そうですね。技術畑の方でも、スタジオを横断してテクニカルマネージャー間でその技術共有の場を持ったりしています。『SCARLET NEXUS』は先行して開発してきたので、その知見がNDAの範囲内でたとえば『テイルズ オブ アライズ』に共有されています。PS 5でのセーブデータをPlayStation4(以下、PS 4)から PS 5にデータ移行できるっていう機能は『SCARLET NEXUS』から『アライズ』へと継承された機能ですね。

●東:本作で導入されているセーブデータ移行。現在はPS 5の機能として利用可能になっていると思いますが、我々が『SCARLET NEXUS』を開発している時点では不透明だったので、自前で開発することとなりました。

コロナ禍による開発への影響

●青松:スタジオやプロジェクトを横断しての技術交流は、リモートワークが増えたいまの方が活発になっています。以前からプログラマー向けの勉強会は月イチで行なわれています。

■穴吹:企画職でもプロジェクトを横断して能力向上を図る取り組みは、いまもリモートで行われていますね。

●青松:決まった時間に会議室なりを借りて情報共有のために登壇といった従来型より、リモート環境のライブビューイングの方が気軽で人も集まりやすいです。コロナ禍の方が情報共有や勉強会の敷居がむしろ下がりました。

■穴吹:逆に、リモートで大変だったのはバトルの調整です。

●東:たしかにバトル部分が理想にたどり着くまではけっこう大変でしたね。穴吹を始めバトル担当のメンバーはトーセさんに直接行って、その場で意見を交換しながらバランス調整をしていたのですが、緊急事態宣言などで自由に会社を行き来することが急にできなくなりました(株式会社トーセのSCARLET NEXUSのチームは京都にいるため)。あとは海外版のボイス収録が後半は宅録になり、サウンド担当にはクオリティ調整でいろいろと手を尽くしてもらう必要がありました。

ⒸSCARLET NEXUS™ & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

●猪ノ木:英語ボイスの収録については、アメリカでのコロナによるロックダウンと時期がかぶってしまいましたね。当時はキャストさんがスタジオに行くことすら禁止されている状況だったので、国内版と海外版を本当に同時に出せるかという話も出ましたね。

開発に参加して成長できたこと

■穴吹:「開発に参加して成長できたこと」ってみなさんどうですか?
私の場合はプロジェクトを周りに認めてもらう”突破力”が身に付いたような気がします。自分でやりたいと言って手をあげ、物事を進めていくためには、いろいろな壁を越えながら前に向かわないとダメです。『塊魂』のように周りを巻き込んでいければ転がっていく。そのためにやっちゃダメなことって、ほとんど無いということに開発しながら気づけたことが大きかったです。

●落合 功多(おちあい こうた)
アーティスト
『SCARLET NEXUS』アートディレクター

●落合:アートディレクターをやってみたことで、自分自身のことだけでなく、自分の話を聞く相手の方のことや、物事を考えるにはいろいろな見方があることを頭に置いて話すことで、より理解を深めてもらえると学びました。
コミュニケーションの大切さはわかっていたつもりだったのですが、今回のような立場になると、自分の伝えたいことをちゃんと理解してもらえているのかを確認すべき場が多くて。そこでどういう伝え方をするのか、人それぞれの伝え方があるんだと考えることが今後もすごく重要だなって感じたところですね。

ⒸSCARLET NEXUS™ & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

■穴吹:オッチーのそういう姿勢はプロジェクト全体に伝染してみんなの成長に繋がったと感じています。

●落合:創作については自分のプライベートの芯に近い繊細な部分をさらけ出しながら話す場合が多いので、否定的な意見を聞くと悪意なく感情を刺激してしまう場合が多いです。だからこそ相手の感じ方を理解することで、その人のよりよいと思う考え方を引き出せるんじゃないかなと思うようになりました。

●猪ノ木 麻奈(いのき あさな)
ゲームデザイナー
『SCARLET NEXUS』シナリオディレクター

●猪ノ木:これまでほとんど機会がなかった、オリジナルIPの世界観やキャラクターをゼロから全部作ることができたのは、自分にとって大きな経験になりました。相手に自分の意図が伝わらなかった際、「なぜ分かってくれないのか」と憤ることも当初はあったと思います。しかし、誰も展望がわからないオリジナルIPを作っている以上、分かってもらえる形にして、相手に伝える努力をするべきだと考え方を180度転換するようになりました。

●青松:いままで私が関わっていた業務ではひとつのプロジェクトにエンジニアとして参加して、どこかのパートを作りこむ役割が多かったのです。ですが、今回はテクニカルディレクターとして、会社の中でも外の会社さんともコミュニケーションを取る立場でした。交渉や協力をお願いする経験は、だいぶ勉強させてもらったなと感じています。遠慮しているだけではいいものが作れない、クオリティアップにつながらないので、譲れない部分に関しては失礼を覚悟の上で納得いくまでコミュニケーションを重ねました。そういうところは少し成長できたと思います。

■穴吹:青松さんは今回エンジニアの枠を超えていろいろやってくれたなと。エンジニア同士しかわからないような技術的なコミュニケーションを積極的に取ってくれましたし、そのおかげで効率よく次世代機への対応を進められたと思っています。

●東:私は、新規IPの作品にほぼ最初から最後まで関われたことです。本作を完成させる上で、他のプロジェクトの方に協力していただいたり、トーセさんと4年強一緒にやってきたり、いろいろな人の意見や想い、フィードバックを取り込むことで、よりよいゲームは生まれると実感しました。
プロジェクトに関わった人、誰かひとりでも抜けたらいまの『SCARLET NEXUS』と同じものは生まれていないと思います。

■穴吹:東さんは、我々の取り組みに初期の段階で嗅ぎつけてプロジェクトに加入してくれましたよね。シナリオや世界観が決まっていない時点で「面白そうなことやってるね!」って。

●落合:私が参加する前から研究が進められていて、下地が出来上がっていたのですごく入りやすかったです。

●東:去年あたりに会社全体の組織改編が行なわれた影響でプロジェクトマネージャーになったのも、いい経験になりましたね。スケジュール管理をしながらプロジェクトを円滑にまわすために優先順位をつけさばいていく。そんな臨機応変に対処する力やトラブルへの対応力がついた気がします。

今後の展望

■穴吹:最後に伝えたいことは『SCARLET NEXUS』がもっともっと多くの人に遊んで楽しんでもらって、この先も思い出してもらえる存在になってほしいですね。続編を望む声も聞こえてきていますので、このチームでまた新しい何かを生み出していけるといいなとは思っています。

●落合:続編か新規かはわかりませんが、今回自分が試行錯誤して出来上がったもの、ビジュアルや感覚は次の制作に活かしていきたいですね。より明確に表現できるよう努力していきたいと考えています。

●猪ノ木: 自分も1作で終わらないIPとして世の中に残って欲しいと思っています。このプロジェクト、チームでならお客様の心を動かすことができるお話や、キャラクターを作れると改めて実感しています。いろいろ反省しつつも、次にもっといいものを作れるようにしていきたいです。

●青松:IPとしての『SCARLET NEXUS』に成長していってほしいっていうのは私も同意見です。発売したDLCをはじめ、より広いユーザーに遊んでいただけるよう、今後もパッチの開発等に注力していきたいと思っています。

●東:理想は『テイルズ オブ』シリーズが25周年を迎えたように、長く楽しんでいただけるシリーズになってくれること。そして、今回いろいろとやり残したことを次回作で実現したいですね。

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オフィシャルサイト
https://snx.bn-ent.net/

販売元:バンダイナムコエンターテインメント
Bandai Namco Entertainment Inc.

※記載されている会社名・製品名は、各社の商標、または登録商標です。

(※1、※2) Xbox Series X|S および Xbox One は米国Microsoft Corporationおよび/またはその関連会社の登録商標または商標です。
(※3、※4)“PlayStation”は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。
(※5)©2021 Valve Corporation. Steam 及び Steam ロゴは、米国及びまたはその他の国のValve Corporation の商標及びまたは登録商標です。
(※6)Unreal® is a trademark or registered trademark of Epic Games, Inc. in the United States of America and elsewhere. Unreal® Engine, Copyright 1998 – 2021, Epic Games, Inc. All rights reserved.

「SCARLET NEXUS™」
SCARLET NEXUS™ & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

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