クリエイターインタビュー

第9回:自分の得意を広げることで応用できたこととは? 【バンダイナムコスタジオ クリエイターを深掘り!】

第9回は、アートディレクターの大塚 俊介さんに取材しました。社内で「自動車といえば大塚さん!」と言われるほど、専門分野を確立していますが、どうしたら得意分野を広げられるのか、相手に得意なことを認知してもらうにはどうすれば良いかなど、考えていることを伺いました。

また、絵が描ける人だけじゃなく、他の職種の方もイラストで提案できる方が良いと話す大塚さん。イラストで伝えるその効果とは?ぜひ本記事を読んで試していただけると嬉しいです!

 

第2スタジオ第2グループ第5プロダクションアートセクション
アートディレクター
大塚 俊介

 

――― まずは、現在の所属や業務内容を簡単に教えてください。

 

第2スタジオ第2グループ第5プロダクションという部署で、アートディレクターをしています。アート制作の中にも、地形やキャラクター、メカだったり、いろいろなパートがあるのですが、自分は全体を見る立場として、上がってきた成果物に対して、アドバイスをしたり、クオリティの高いデータを作るにはどういうアプローチや体制をつくればよいかなど考えています。

 

――― 業務の担当領域が広そうですね。

 

そうですね、業務をする上で必要な情報はその都度吸収して、自分たちのチームに必要なものだったら、積極的に自分自身も勉強します。チームメンバーにもレベルアップしてもらう場を作るとか、こんな資料もあるのでみんなで見てみましょうという機会を設けたりしています。ひとりのデザイナーとして個人の仕事だけを進めていた時代よりも、現在の方がそういう業務の比率は上がっていますね。

 

例えば、一言で「業務」と言っても、結構な範囲を自分の裁量で自由に決められるタイトルもあれば、大まかな仕様が決まっている中でその構想を形にするのがメインとなるタイトルもあります。その場合は、新しくプロジェクトへ入ってこられた方に対して、「これから関わってもらうタイトルというのは、こういう部分が大切にされています」とか、求められているデザインのテイストの話とか、翻訳者のような立場で伝えることも多いですね。

 

――― 純粋なアート制作業務以外にもたくさんの業務があるんですね。

 

そうですね、大変な部分もあります(笑)。 新メンバーが合流する度に同じことを伝えることも多いです。

 

幸い現代には、Zoomという良いツールもあるので、みんなに「この時間に集まってください」と伝えて、画面共有しながらいろいろと説明するとか、それこそ、会議室で集まってやるよりかは、テレワークならではの良さがあるなと感じます。

 

――― 会議室の場所取りも大変ですしね!

 

会議室の予約を取らなくて良いのは、ものすごく大きいです。多人数が入れる場所を気軽に作れる事にオンラインの良さを感じます。

 

――― テレワークの良い面のお話でしたが、逆に課題はありますか?

 

同じプロジェクトには、ディレクターやテクニカルディレクターもいるので、その方たちとタッグを組んで、コミュニケーション不足になりがちなところをどう補うか、というのを2年くらいあれこれ試していました。

 

どうやって雑談を生むかを考えて、チームメンバーを3名ずつのチームに分けて1時間くらいの雑談会なども実施しました。全く知らない人同士が同じプロジェクト内にいる時に、「あの人はどんな作業をやっている人か」みたいなことが中々分からないので、相談しにくい空気にならないようチームづくりに努めています。

 

――― なるほど、業務で関わっていない方だと、どんな人か全然分からないですよね。

 

はい、だから久しぶりに出社すると「1年くらい一緒に仕事をしていたけれど、実際会うのは初めて」みたいな人もいました。

 

Slackをはじめとしたチャットツールのやり取りが多いのですが、どうしても文字だけだと伝わらなかったり、ちょっと角が立って伝わったりしちゃって……。

 

なので、「ちょっとZoomしましょうか」っていう形でやった方が、表情も含めてお伝えできるので、オンラインでも「顔を合わせること」は重要だなと改めて感じましたね。

 

――― たしかに、直接話すことで伝わり方も変わりますよね。話題は変わりますが、今までの仕事で印象深いエピソードはありますか?

 

入社後10年くらいは「リッジレーサー」の車両データの開発に関わりました。もともと自動車好き、レース好きだったこともあって、車体テクスチャづくりから、カラーリング、メーター、内装、カスタムパーツ、車体のデザインと徐々に携わる範囲を広げることができました。

 

そうした事もあり、社内のいくつかのプロジェクトで自動車のデータを作る際は「クルマと言えば大塚だろう」と声をかけていただく事が増えました。

 

中には現実のカスタムカーのデザインにも一部関わる事ができ、憧れの自動車業界の方とのお仕事も経験できました!

 

レースゲーム開発で描いたイラスト

 

――― すごい、自動車が好きなのが伝わります! レースゲームに携わるきっかけはありますか?

 

旧ナムコでレースゲームを開発する求人が出ていて、「レースゲームを作ってみたいな」と応募したのがはじまりです。入社して10年くらいはレースゲームばかりに関われたので、すごく幸せだったと思います(笑)。大変なこともありましたが、好きなことですし、足りない知識や新しく学ばなくてはいけない領域があっても、勉強することに苦はなかったですね。

 

自分が車の愛好者として「どんなところに興味を持つのか」という視点を、例えば靴や洋服などのファッションといった全く違ったものを担当する時にも、取り入れたり、素材やメカニズムなどクルマ好きだからこそ身についた能力は、応用できていたりします(笑)

 

――― 作り方のアプローチについて、もう少し詳しくお伺いしてもよいでしょうか。

 

一番良いのは、実物があればできるだけ手に持ったりして、それの良さってなんだろうと分析していく、とかでしょうか。どこに行ったら情報があり、盛り上がっているのかを知る。例えば、イベントや展示会に行くと、必ず収穫があります。

 

自動車を調べる際によくあるのですが、研究中の文献とか資料は自動車会社の広報からリリースが出ていますよね。自動車に限らず、企業がリリースしてる情報や研究内容を調べていくと細かいことが書いてあったりします。雑誌であれば作った人のインタビューを読むのも良いです。

 

――― 自動車が好きな気持ちが、いろんなことに応用できるんですね!

 

そうですね。こだわって作ってあるものだったら、そのこだわりさえ分かれば、自分が好きになるかどうかは別としてもなんとなく押さえるべきポイントが分かりますね。

 

語弊があるかもしれませんが、好きじゃなかった物も、好きになろうとすれば興味も出てくるし、その裏にあるストーリーや思いを知ると愛着を持ってもっと好きになるみたいな、そういう実感があります。

 

また、自分で試すより誰かに聞いた方が早いだろう、ということもあるかと思います。

 

そうすると、「あの人が詳しいよ」と教えてもらったり、また社内で人脈がちょっとずつ広がったりというきっかけにもなります。必ずしも全部自分で知ることは必要ないですが、困ったときにどこに行けばいいのか、どこに聞けばいいのか、そういう経路を持っておくのはやっぱり大切だと思います。

 

この会社バンダイナムコスタジオの中には、いろんな方がいらっしゃるので、探そうと思えば、結構なんでも聞ける気がします。

 

――― 社内だと「自動車と言えば大塚さん」のイメージがありますが、相手に得意なことを認知してもらうためには、どうすれば良いでしょうか。

 

それに関しては上司や一緒にお仕事した方々が「自動車の話だったら大塚が詳しいよ」と広めてくれたことが大きいので、感謝しています。

 

「社内でちゃんと際立てば、仕事は来る」というのが、20年くらい働いて得られた実感です。

 

大塚さんのマイカー(?)コレクション!

 

――― そんな仕事に取り組むにあたって譲れない「自分ルール」はありますか?

 

当たり前では?と思われるかもしれませんが「できるだけ早く絵で提案する」という姿勢を心がけています。

 

もちろんどんな絵でも描けるわけではありませんし、自分よりすごい技術や専門性を持ったデザイナーは社内にたくさんいますが、それでもプランナーやエンジニアとコミュニケーションをする中では、周囲からは自分は「デザイナー」として認識されます。

 

“言葉“でのやり取りを”絵“にする事で、それぞれの認識の違いが可視化されたり、刺激された別の人が絵で語ってくれたりもします。こういう事がチームでモノづくりをしている時の醍醐味だったり、ワクワクを感じる瞬間だったりします。

 

「今回こんなプロジェクトです」と話があった時、最初にいただく情報は、口頭だったり文字ベース、あっても参考画像程度だったりするかと思います。打ち合わせ内で「かっこいい要素が欲しいです」とか「近未来な何か」という言葉が出てきても、人によってかっこいい要素や、SFの捉え方はバラバラですよね。

 

そこで、「こういうのはどうですか」という提案を絵で何枚か用意しておくようにしています。ポジティブにしろネガティブにしろ、なにかしらの反応は返ってくるので割と話が進みやすいかなと考えています。

 

中身の善し悪しとは別に「もうやってくれたんですか!」というちょっと気分がノった状態を作れる効果もあるかなと思っています。

 

――― 絵で提案できるのはデザイナーの特権ですね。でも、すぐ提案する姿勢は見習いたいです。

 

デザイナーに限らず、他の職種の方でも、ふせんやコピー用紙になんとなくイラストを描くだけでも違うと思います。

 

「こっちからキャラクターが歩いて、ここを通る」みたいなのを言葉だけでやるよりかは、教科書の落書き(笑)のような本当に簡単なレベルのものでも提示できれば、コミュニケーションの質は変わる気がします。

 

――― 「これだけは自信がある」と言えることはありますか?

 

「楽しんでつくる」ことにつきます。開発をやっていると、うまくいかない事や難題にぶつかることもありますが、どうすれば“クリア”できるかを考えるのは楽しいです。ゲーム好きとしては“体質”みたいなものかもしれません。

 

どのプロジェクトであっても、最初に思った通りに動かないことは絶対あって、そういう時につい不平不満が出てしまうのは、自分の経験上もよくあります。ただ、その不平不満を言っているだけだとなかなか解決しなくなっちゃうし、周辺にもダメな空気みたいなのが充満しちゃいますよね。できるだけポジティブな部分に目を行くようにしたいですね。

 

悪い部分を見ないようにするわけではないのですが、「この部分は楽しめるんじゃない」っていうのを、見つけられるようにしています。特に今の立場になってから周りへの影響を考えるようになりましたね。

 

それがうまくやれているかは難しいところですが、「ゲーム作りは楽しくあってほしい」と常に考えているので、できるだけ多くのメンバーが楽しく開発できる雰囲気になればいいなと思っています。

 

――― 今後チャレンジしてみたいこと、抱負などはありますか?

 

普段は「画面の中」を作っていますが、「画面の外にもはみ出した遊び」をつくりたいです。例えばおもちゃだったり、身につけるものだったりが少しでもゲームとリンクするような体験が作れたら楽しいなと思います。

――― 最後に、座右の銘はありますか?

 

「好きこそものの上手なれ」ですね。絵やプラモデル、ゲームなどに熱中していた学生の頃に父に言われてから肝に銘じています。

 

「もともと好きだったもの」はもちろんですが、仕事をする上で知らなかった事があれば調べ、調べていく過程で好きになったり、良さが分かれば今度は「どうやれば良さが伝わるか」と工夫の余地が生まれます。ゲーム制作は、そうした機会に多く出会える場所だなと日々実感しています。

 

――― 大塚さん、ありがとうございました。

 

前回「第8回:ディレクターが語る”開発がきっかけで始めたあること”とは?」はこちら

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