クリエイターインタビュー

第8回:ディレクターが語る"開発がきっかけで始めたあること"とは?【バンダイナムコスタジオ クリエイターを深掘り!】

第8回は、ディレクターの小柳 宗大さんに取材しました。開発チームをまとめ上げることもディレクター業務のひとつ。チームメンバーに自分の考えを伝えるためにどんなことを心掛けてコミュニケーションしているのでしょうか。

また、ゲームのディレクターとして考えていることや関わったタイトルがきっかけで始めたことなど、さまざまなお話を伺いました。「どうしたら自分の考えを上手に周りへ伝えられるだろう?」と悩んでいる方は、伝え方のヒントになるかもしれません! ぜひ、参考にしてみてくださいね。

 

第2スタジオ第1プロダクション
ディレクター
小柳 宗大

――― 現在の所属や業務内容などを教えてください

第2スタジオ第1プロダクションでディレクターをしています。これまで、さまざまなジャンルのゲームに関わってきましたが、最近は新作ゲームの製作に携わっています。ジャンル問わずディレクターの役割は、どんなゲームを作るかというのを、誰よりも方針付けて、チームをその完成形に導く存在ですね。

プロジェクトごとにそのディレクターが持っている権限の違いとかでやり方は変わってくるかと思いますが、現在のプロジェクトの場合は、どういう遊びにしていくか、その遊びにどんな要素が入れるか、最終的にどんなゲームとして仕上げていくかなどを考え、それをどんどんプロジェクト内に発信していくことをディレクターの職務としています。

例えば、登場するキャラクターについて、どんな性質を持つのかとか、どんな見た目にするのかというところも関わっていきます。ただ、ディレクターの下にも、各職種に職種ディレクターという担当者がいるので、例えば、キャラクターの見た目とか、影の落ち方とか、造形のデフォルメ具合というような細かな部分は、ビジュアルアーティストの職種ディレクターが決めていったりします。

全体的な方針をディレクターが提示して、それに沿って各職種ディレクターの方々が現場に落としていくというイメージですね。

 

――― 職種ディレクターと話していて、A案とB案、どっちも良いものが出てきた時、どういう基準で取捨選択をしているのでしょうか?

 

最初に「こんなゲームです」というコンセプトを考えて立ち上げているので、あまり迷うことはないです。プロジェクトの決定権は、パブリッシャー側のプロデューサーが握っている場合もあるため、自分は「このコンセプトだったらどっちの表現が合うのか、どういう遊びにした方が面白くなりそうか」というところを一つの指針にして選ぶことが多いです。

 

ただ、調整が大変だったり、答えが出ないものもあったりするので、そうなるとある程度好みの部分も出てきたりはします。少なくとも、全体を一番良く見えている立場がディレクターなので、他の人が見えていない部分も含めて、トータルでどっちが最適であるかを考えて、答えを出す必要があるかと思います。

 

――― シリーズもののタイトルの場合、これまでの世界観を引き継がないといけないという要素と、それプラス新しい要素を入れていかなければならない、という点で葛藤があるかと思います。それについてはどう考えていますか。

 

社外にディレクターが立っているようなタイトルの場合、その責任者が「こういう風にしていこう」とかなり明確に出されているところがあるので、あまり悩まずに自分の裁量の中だけでどっちがいいかというのを考えながら修正していくことができます。

 

自社タイトルで世界観がしっかりしているタイトルの場合、基本はやっぱりお客様ありきの部分もあるので、ユーザーがこのコンテンツに求めているものはどこだろうというのを一番大切にしています。その中で今回のゲームにおいては、どういう見せ方をしたらユーザーに新しい驚きがあって、ゲーム全体としても良くなるのか考えながら、取り入れる要素を取捨選択しています。

 

――― チームをまとめるにあたって、個々の良さを引き出す必要があるかと思います。そのあたりのチームビルディングで気を付けていることはありますか?

 

そうですね。僕も学びながら試行錯誤をしている段階です。 タイトルの開発規模によって、ひとりひとりの関わり方も変わってくるかと思います。以前関わっていたプロジェクトの時は、全体のメンバーが50名にいかないようなチームだったので、全体のコミュニケーションは取りやすかったです。

 

100名を超えるようなプロジェクトになると、自分ひとりで全員とコミュニケーションは取れなくなってくるので、職種ディレクターやパートリーダーと重点的にコミュニケーションを取ることで全体を把握するようにしています。

 

コミュニケーションといえば、テレワークが増えたことによるコミュニケーション不足の問題もありました。今まで対面で共有できていた部分がテレワークにより減ってしまったためオンラインミーティングを増やしたのですが、そうするとオンラインミーティングの時間がどんどん増えていって、開発の作業時間がちょっとずつ減ってしまう。どこのプロジェクトもそうかと思いますが、これは悩みどころでしたね。まめに連絡を取りつつも、1回の打合せ時間は短く設定してサクッと終わらせるなど、コミュニケーションの仕方は工夫していました。

 

――― チームビルディングで気付いたことはありますか?

 

私は仕様や概要を作成するのですが、それを超えるビジュアルを作るアーティスト、扱いやすいシステムを作るエンジニア、映えるモーションを作ってくれるアニメーター、気持ちよい効果音や音楽を作るサウンドクリエイターがBNSにはたくさんいて、毎度助けられています。一緒に働いていて、常に頼もしいです!

 

 

――― どういう時に頼もしいなと思いましたか?

 

例えば「こんなモーションで」とか、「こんなキャラクターにしたいですと」いう方針があって、ビジュアルアーティストやプログラマーにそれを簡単な絵や文章で概要を説明しているのですが、各担当者から成果物が上がってくると、最初に考えていた概要よりもより良いものが出来上がったりと、それぞれが考えた新しいアイデアやクリエイティブが発揮されているところがあって、そういうのを見るとBNSのクリエイターはやっぱり優れた人が多いなと感じます(笑)

 

――― いろんな職種の方に自分の考えていることを伝える場面があるかと思います。職種によって伝え方を変えたりしているのでしょうか?

 

あまりそこは意識していないですね。人によって結構やり方が違っていたりするので、その人に合わせたやり方をすることはあるかもしれません。自分でアイデアを出したいビジュアルアーティストの人だったら、その考える部分までお任せした方が、より本人のモチベーションも上がりますし、良いアイデアも出てきたりするので、そういう時はあまり具体的な指示を出し過ぎないようにしています。

 

明確にこういうコンセプトでやりたいんだというのが企画側である場合は、概要をちゃんと伝えて、自分でそのイメージに近いものを探してきたりとかして、説明をしっかりしていくというのが求められますが、実際はやりたいことと相手によって、伝え方を柔軟に変えていくということが私も含めて企画職の人は多いのかなと思います。

 

――― 伝えることも大きな仕事のひとつだと思うので、そこは工夫されている方が多そうですね。

 

工夫していることと言えば、前作や原作、モチーフがある場合、その元となった遊びやコンテンツ、アクティビティを徹底的に遊び、消費者、愛好家目線になることを心掛けています。

 

例えば、『GO VACATION』というゲームに携わった時、「山のリゾート」というエリアを担当しました。その時は、山のリゾートってどんな要素があるだろうとか、どんな魅力があるだろう、どうするとその魅力が出せるか、といったところを徹底的に考えました。

 

なんとなく想像でやってしまうのではなく、実際に自分の足で行ったりとか、体験したりとかして、そのリゾートの雰囲気を味わって、こういうところに感動したなとか、こういうところが面白いと思ったな、とかこういうシチュエーションはあるあるなんだなと、ちゃんと自分の実感として持てるところまで落とし込みました。現実でも同じようにものがある場合は、やってみて徹底的に好きになって、それをゲームに反映できるようにしていこう、という意識を持って取り組んでいます。

 

『GO VACATION』では山エリアを担当したことで、登山が趣味になりましたし、ミイラ取りがミイラになる感覚で実際に体験しながらゲーム制作に取り組みました。

 

長野の涸沢にて

 

 

アルプス山脈(スイス)にて

 

――― 好奇心旺盛じゃないと務まらない仕事ですね。

 

そうですね、企画職の人はみんな好奇心旺盛の人が多いと思います。食わず嫌いよりかは、なんでもやってみて、どっぷりと深くハマれる方が良いですね。遊びのパワーというか、楽しんでいる人のコアな部分ってなんだろうということを考えるために、体験したりとか、楽しんでみるということが大切だと思います。

 

――― どのエンターテインメントもそうですが、作っている人が楽しいと思ったから入れた要素がないと、人の印象に残らないですよね。

 

『GO VACATION』以前に、同じようなタイトルで『ファミリースキー』に携わっていて、スキー場にいるお客さん達をフィールドに配置する担当でした。例えばお父さん風のひげを生やした人と、お母さん風の見た目の人と、小さい子供がいたならば、それだけでなんか家族っぽい見え方になるかと思います。また、その時の姿勢だったりとか、場所によって表情を変えたりすると、そこに物語が生まれていき、「こんなシチュエーションあるよね」とユーザーに感じてもらえるように工夫しました。危ない場所でお父さんが怒っていたら、子供が怒られたんだろうなみたいな演出できるので、そういう細かい部分でもアイデア出しはしていましたね。

 

――― ゲームってフィクションじゃないですか。現実で体験したことと、それをゲームで落とし込む時は、やはりギャップがあるかと思いますが、そこはどうやって埋めるのでしょうか? デフォルメして作ることが大事なのか、なるべくリアルに寄せていくことが大事なのか、あるいはその両方でしょうか?

 

なんでもかんでもリアルにするのは違うように感じます。「山のリゾート」だと、馬に乗れたりするのですが、実際の乗馬ってすごく難しいんですよ。僕も乗ってみて分かったのですが、本当の乗馬では、毎回馬が上下するタイミングに合わせて自分の腰を上げなきゃいけなかったりします。

 

ただ、ゲーム内でも馬に乗れるまでに相当な技術がいるというのは、「気軽にリゾート体験ができる」というこのゲームの魅力からは外れますよね。ファミリーが遊んでちょうど良いと思うようなゲームの難易度だったり、メカニクスに落とし込んでいって、これぐらいだったらあるある体験になるだろうっていうところに、うまく落とし込んでいくのが、ゲーム開発の考えどころだと思います。

 

――― 簡単すぎても面白くないし、難しすぎると飽きちゃうし、その微妙なラインは難しいですね。

 

はい。この適切な難易度を付けることを「ゲームの階段」とか「レベルデザイン」とか呼んでいるのですが、誰もが昇って行ける上手な階段を作ってあげたりとか、メインで遊ぶ人がちょうど良いと思えるくらいの段差や波を作ったりするのがゲーム開発の特徴かもしれません。

 

 

――― 新しいことを考えたり、アイデアを出したりするときに、どういうところからインスピレーションを得ているのでしょうか?

 

なるべく多くのものを体験して活かそうと考えています。なので、世の中で面白いもの、流行っているものがあったら、実際に足を運んだり、遊んでみたりというのは、心掛けています。

 

最近だと、マラソンを面白いなと感じました。これまで、長距離を走るのは苦しいのになんでマラソンをやるんだろうと思っていました。でも、周りを見ていると年配になってマラソンを始める人が多くいるんですよね。それってなんでだろうとずっと疑問に思っていて。

 

このコロナ禍で自分自身があまり体を動かさなくなっちゃったので、体重が増えたり、体力も落ちてきました。そこでなにかしら運動をして体力を戻したいと思い、試しにランニングをしてみました。始めてみると、自分のペースで走れるし、今ではすっかりマラソンにハマってしまいました。

 

マラソンって必ずやればやるほど成長が見られるんですよ。最初10kmがやっとで走ってた人が11kmを走れるようになるのは、わりとすぐできるようになって、そうすると距離も伸びてくるし、1kmあたりに掛かる時間も減ってくるので、さっき話した「ゲームの階段」が約束されているんですよ。やればやるほど必ず自分の成長が見えて、頭打ちにならないので、みんながハマっていく理由が分かる気がしました。

 

――― 今後チャレンジしてみたいこと、抱負などはありますか?

 

キャラクターを展開できるような、オリジナルゲームやコンテンツの立ち上げを行いたいです。

 

格闘アクションゲームが好きなので、アクションがある何かを作りたいですね。欲をいえば、アクションアドベンチャーを3Dで、かつオープンワールドで戦える形で作ってみたい(笑) そう思うと、凄まじい開発規模になって現実的ではなくなっちゃうので、まずは状況に応じてベストを尽くしていけたらいいなと思っています。そのために、必要な信頼と実績、徳を積んでいる最中です……(笑)

 

――― 最後に、座右の銘はありますか?

 

「神は細部に宿る」をモットーにゲーム開発にあたっています。

 

企画職やディレクターは、他のゲームよりも良いところやユニークさを「分かりやすく」「短い言葉で」伝えることを求められます。その一方で面白い仕組みや遊び、美しさや映える見た目を実現しているのは、その裏にある細かな技術や調整、工夫に支えられていることがほとんどだと思っています。

 

例えば、企業の経営方針が200文字もあったら誰も読んでくれないじゃないですか。だからどこの会社も「この会社ってひとことでいうとなに?」「この会社の強みってなに?」というキャッチコピーを用意していますよね。そのキャッチコピーを作る人達がいるように、企画職も短く凝縮して伝えたり、表現したりすることを求められています。偉い人達も時間が無限にあるわけではなく、短い時間しか取れなかったりするので、短い時間で要旨を説明できる能力は確かに必要だと思います。そういう言葉磨きだったり、プレゼン資料の作り方だったりは企画書を仕上げるのに必要な能力です。

 

ただ実際には、その短い言葉を作り出せるだけではダメで、コンセプトや短い言葉を表現するための細かな見えない技術だったり、工夫だったり、デザインだったり、調整だったりとかのいろんなノウハウを持って、作り込んでいくというところも必要だと思っています。

 

こういう細かな部分は説明などで表に出ることはありませんが、その懐の広さや深さをいかに持って、仕事をこなしていけるかが、人を感動させる何かに繋がっているのだと痛感しています。

 

――― ありがとうございました。

 

前回「第7回:テクニカルディレクターが考える“幅広い経験を積むのが必要”と思ったその理由とは?」はこちら

 

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