クリエイターインタビュー

クリエイターインタビュー

坂上陽三(ガミP)のゲーム開発論:クリエイターに求められる力とは?

バンダイナムコスタジオの坂上陽三さん(通称:ガミP)

エースコンバット」の前身である「エアーコンバット」から、「アイドルマスター(アイマス)」シリーズなど日本を代表するコンテンツを育て上げた坂上陽三さん(通称:ガミP)。

30年以上にわたるゲームクリエイターとしてのキャリアを経て、現在はバンダイナムコスタジオのスーパーバイザーとして開発現場に携わっています。

業界の裏側を知り尽くしているからこそ語ることができる、開発現場の実態やこれから必要とされるスキル・心構えとは?

これまでの彼の軌跡を振り返りつつ、移り変わるゲーム業界の過去、現在、そして未来を紐解いていきます。

坂上陽三(ガミP)のキャリアの始まり:ゼロからの挑戦

―“ガミP”の愛称で多くの方に親しまれている坂上さんですが、これまでのご経歴を教えてください。

坂上:僕は1991年にビジュアルデザイナーとしてナムコ(現バンダイナムコスタジオ)に入社しました。

最初の仕事は当時全盛期だったアーケードゲームの開発で、「エースコンバット」の前身である「エアーコンバット」の担当でした。

実はその時3Dをやったことがなく、パソコンすら触ったことがなかった。書類もワープロ、勤怠も手書き。ゼロからのスタートでしたね。

そんな時代に「ファイナルラップ」や家庭用の「リッジレーサー」、「MotoGP」などのレースゲームを中心に作っていました。

そしてのちに、「デスバイディグリース」というゲームをプロデューサーとして作ることになったんです。

初めてのプロデューサーとして全てを担った多忙な日々

―ゼロからのスタートを経て、プロデューサーへ!初めてのプロデューサーはいかがでしたか?

坂上:もうバタバタでしたよ。(笑)

当時は今と違って、プロデューサーが勤怠、給与などを含めて全部見ていたんです。休んでいる人がいたら家まで行ったり・・・。

―そんなことまで!

坂上:とにかく領域がとても広かった。

プロモーションにおいては国内だけでなく、ワールドワイドで管理しないといけなくて、海外のプロモーション計画から販促用のコップの監修までやっていました。

その頃は35歳くらいだったかな。

プロデューサーって誰も定義できていなかったから、管理作業から何まで全部やっていたんです。バタバタでしたが、今思うと良い経験ですね。

バンダイナムコスタジオの坂上陽三さん(通称:ガミP)

「アイドルマスター(アイマス)」シリーズの誕生:新規プロジェクトへの挑戦と苦悩

―多忙なプロデューサー経験を経て、のちに「アイドルマスター(アイマス)」シリーズの総合プロデューサーとしてご活躍されたかと思います。最初のきっかけは何だったのでしょうか?

坂上:当時上長だった横山茂さんから、「石川祝男さんが(新しいゲームタイトルの)制作委員会を立ち上げるから、ちょっと話を聞きに行って」と言われ参加しました。

そしたらいきなり「家庭用ゲームのプロデューサー、坂上さんです」と紹介されて。話だけ聞くつもりが、参画することになっていたんです。(笑)

委員会のメンバーは当時30人くらいだったかな。ただ、最初のプロジェクトは思うようにいかず、みんないなくなっちゃった。蜘蛛の子を散らすように。

あとはその時に家庭用ゲームとして任されたのが、「アイドルマスター(アイマス)」の始まりだったんです。

※石川 祝男(いしかわ しゅくお):元株式会社バンダイナムコホールディングス代表取締役社長 および元株式会社バンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長/横山 茂(よこやま しげる):元株式会社バンダイナムコスタジオ 代表取締役社長

ファンとの交流が生んだ新たな価値

―意外すぎる始まりですね・・・!今や世界中から愛されるシリーズとなりましたが、当時総合プロデューサーとしては主にどのようなことをされたのでしょうか?

坂上:多岐にわたりますが、中でも「キャラクターたちが歌って踊る」というゲームの特長を活かして、当時盛り上がりを見せていた動画配信をはじめ、CDのリリースイベントなどさまざまな場に出向き、ファンの皆さまと交流させていただいたことは強く印象に残っています。

多くの方に喜んでいただけたことが何より嬉しかったですね。

バンダイナムコスタジオの坂上陽三さん(通称:ガミP)

バンダイナムコスタジオのスーパーバイザーとしての役割

―とても貴重かつ大切なご経験ですね。総合プロデューサーとしてご活躍されたのち、バンダイナムコスタジオのスーパーバイザーへ就任されたのはいつ頃でしょうか?

坂上:2023年です。「アイドルマスター(アイマス)」シリーズの総合プロデューサーを引退して、今に至ります。

―スーパーバイザーとして、現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

坂上:所属するチームは、事業部のサポートをしています。

バンダイナムコエンターテインメントは、事業主体のプロダクションです。外部パートナーの開発プロジェクトとやり取りをすることが多くあるのですが、その中で、認識や意見が乖離してしまうこともあります。

それに対して、両方の視点からみられるメンバーが間に入り、仲介し、物事の整理をする。

僕は、そのようなメンバーが在籍するチーム全体の相談役という立場です。

もう一つは、「GYAAR Studio インディーゲームコンテスト」のスーパーバイザー兼審査員もしています。

インディーゲームのクリエイターたちに会うと、自分たちで少人数でゲームを作るという、僕が入社当初に体験したことと同じ状況なので、初心に戻ることができますね。

自ら把握して積み上げていく、その厳しくも楽しい状況にいるクリエイターたちの姿は、僕にとっても良い刺激になります。

変化するゲーム業界:コンテンツの大型化と運営型へのシフト

―スーパーバイザーという立場から見た、現在のゲーム業界についてお聞きしたいと思います。昨今、大きい変化だと感じることはありますか?

坂上:コンテンツの大型化ですかね。ワールドワイド展開が拡大しているのが大きいと思います。

昔から変わらない傾向ですが、デジタル化が進んだ結果これまで日・欧米が中心だったのが、中・印・南米など、人口の多い地域においてもゲームを遊ぶという動きが活発になっていきました。

それに伴い、家庭用ゲームも分かりやすくマルチプラットフォーム化された。

もう一つは、「シーズンパス」や「エキスパンションパス」などが出来て、1本のゲームを長く楽しんでいただく形に変わったことですね。

以前は1本のタイトルを出して、また2年後に「2(続編)」を出すというやり方でしたから。

ゆえにゲーム開発も長期化し、“運営型”が当たり前になっていると思います。

―どうして変わっていったのでしょう。

坂上:ゲームが複雑化して、莫大な費用や工数をかけて作られていくようになりました。所謂、大規模開発ですね。

そうして出したゲームをお客様に長く、深く遊んでいただくためにアップデート版を出す、といった流れなのだと思います。

バンダイナムコスタジオの坂上陽三さん(通称:ガミP)

ゲームクリエイターに求められる力「ゲームデザイン力」

―そうした流れの中で、ゲーム開発現場も大きく変わっていったのですね。

坂上:仕事がより細分化しました。専門職化したイメージですね。

その中で、それを組織立って見られる体制になっているのかが今後の課題になる。組織体制としてはプロジェクトマネージメントの役割がより重要になると思いますが、それはあくまでもスケジュールや予算においての進行管理についてです。

そういう意味でいうと、今後ゲームクリエイターにはより“ゲームデザイン力”が問われると思います。

―坂上さんがいう“ゲームデザイン力”とは何でしょうか?

坂上:「ゲームデザイン?つまり企画がもっと頑張るってこと?」と思うかもしれませんがそうではありません。

その前に、ゲームストーリーの話をさせてください。

ゲームストーリーと聞くと、シナリオやキャラクター、世界観などを思い浮かべると思いますが、そういうことでもありません。

ゲームって、ゲームを立ち上げて、スタート画面からインゲームを遊ぶ。そこからアウトゲームを遊び、それを繰り返しますよね。

それぞれから得られる体験や達成感がある。それらを積み重ねて一本の線にした上で、ユーザーに大きな体験と感動を与えることを、ここではゲームストーリーと呼ばせていただきますね。

バンダイナムコスタジオの坂上陽三さん(通称:ガミP)

ゲームデザイン力が問われる、というのは、そのゲームストーリーを俯瞰して見ることができる人が必要ということ。

企画だけでなく、プログラマー、ビジュアルデザイナーなど、少なくともプロジェクトに関わる各セクションのキーマンが理解できていないと的確な判断・指示ができません。

それぞれの仕事の前後の仕事はどのようになっているのか。全体的に、ゲームとしてどのように再現されるのか。

プロジェクトが大型化して、複雑化している状況であるからこそ、とても大事なことになってくると思います。

結局、どんなにビジュアルが綺麗でシナリオが面白くてもゲームストーリーから得られる体験に満足しなければユーザーは評価してくれません。

やはりゲーム開発はプロジェクトチーム全体の総合力が必要だと思います。

―点ではなく線として、俯瞰してみるということが重要なのですね。クリエイターの方々はどのように、ゲームデザイン力を培えば良いのでしょうか?

坂上:当たり前ですが、自分の行った作業を実機上でちゃんと確認して遊ぶことです。

効率を追いかけるのではなく、ユーザーが遊んでいることをイメージして、わかりやすさやテンポは、本当にこれで良いのか?と疑問を持って作業をすることが必要だと思います。

つまり、適正化が重要。

バンダイナムコスタジオの坂上陽三さん(通称:ガミP)

効率化といって、スピードを上げることを最優先にしてとにかく早くやろうとチェックを人任せにしてしまいがちですが、それは単に、他の人の作業を増やしているだけになるので全体でみると結果として非効率な作業になりがちです。

スピードを上げるとしたら、取捨選択の選択力や、正解を選びだしていく思考力を経験から鍛えていくものだと思います。

ゲームクリエイターへのメッセージ 世界と繋がる業界での挑戦

―第一線で活躍される坂上さんへ憧れを抱くゲームクリエイターや、クリエイター志望の方が多くいらっしゃると思います。最後に、そのような方々へメッセージをお願いします。

坂上:映画やアニメなど、日本が作るエンターテインメントって色々あると思うのですが、その中で一番世界に通じているのがゲームだと僕は思います。

しかも自分たちが作ったものが世界で遊ばれる可能性がとても高い。そういう業界で働くということは、とても夢があることですよね。

さらに、年齢も関係なく挑戦できる。それが、この業界の良いところだと思います。

志高く走り続ける方々と一緒に、僕も頑張っていきたいです。

―貴重なお話、ありがとうございました!

バンダイナムコスタジオの坂上陽三さん(通称:ガミP)
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