
2025年9月3日(日本:9月4日)に発売を控えた、3Dアクションアドベンチャーゲーム「Hirogami(ひろがみ)」。
バンダイナムコスタジオシンガポール・バンダイナムコスタジオマレーシアが開発した本作も、以前記事で取り上げた『Project: JUDGE VISIONS(プロジェクトジャッジビジョンズ)』同様 、バンダイナムコスタジオの社内企画「スタートアップチャレンジ*」から生まれたタイトルです。
「折り紙」をコンセプトに、「変形」「戦闘」「探索」という3つの要素を軸に開発された本作について、開発メンバー4名にオンラインインタビューを行い、裏側を語っていただきました。
*スタートアップチャレンジ:若手社員から選ばれた1名がリーダーとなり、定められた期間と費用をかけて開発を行う社内企画。選ばれた1名は“勇者”と呼ばれる。「ゼロから自分で考えて生み出すクリエイティブ経験」を積む、育成の一環として実施。
本作は、これまで日本の開発チームをサポートしてきた、バンダイナムコスタジオの海外のスタジオ(バンダイナムコスタジオ シンガポール、バンダイナムコスタジオ マレーシア)が“勇者”となり、日本を含むグローバルなゲームプレイヤーの視点で完全オリジナル作品を作るチャレンジとしてスタートしています。
開発メンバー紹介

※写真左から
テクニカルデザイナー:Wesley Kam(ウェズリー・カム)
リードゲームデザイナー:Yandhie Pratopo(ヤンディー・プラトポ)
リードゲームデザイナー:Yong Yi Han(ヨン・イーハン)
サウンドディレクション / コンポーザー:燕 青(ツバメ・アオ )
役割兼務は当たり前?少人数で開発された「Hirogami(ひろがみ)」
―今回は「Hirogami(ひろがみ)」開発の裏側についてお話いただきたいと思います。
まずは本タイトルの開発にあたり、皆様はどのような役割を担われたのでしょうか?
ヤンディー:このプロジェクトは少人数のチームで成り立っており、開発メンバーの役割は多岐にわたります。例えば私の場合、イーハンさんとウェズリーさんと共にゲームデザインを行いながら、並行してアートディレクターのゲイリーさんとも密に作業を行いました。
また、加藤さん(本作のプロデューサー)と物語の部分を担当したり、アクションアドベンチャーゲームという特性上レベルデザイン関連の作業が多くなるため、イーハンさんとレベルデザインに関わったりもしました。 このように様々な役割を担っていますが、簡単に言うと本作の「クリエイティブディレクション」を担当しています。
イーハン:私は主にデザインリードを担当していましたが、ヤンディーさんの言った通り複数の役割を担っており、ボスやボスステージの実装作業、SFXやUIなどの管理、サウンド関連など他のスタッフと関わる機会がたくさんありました。
ウェズリー:私はテクニカルデザイナーとして主にゲームデザインのサポートを行いましたが、UI、エネミーの挙動、ゲームシステムなど、開発の様々な場面でプログラマーとしても貢献しました。
燕:私はサウンドの全般を担当しました。
―ひとりで多くのパートを担当されたのですね。
―「Hirogami(ひろがみ)」とは、どのようなゲームなのでしょうか?
燕:「Hirogami(ひろがみ)」は美しい折り紙の世界でプレイヤー自身が自由自在に姿を変形させながら謎を解き、冒険する3Dアクションアドベンチャーゲームです。変形しながら、デジタルに侵食された折り紙の世界を取り戻す旅をしていきます。
ヤンディー:「Hirogami(ひろがみ)」は3つの軸、「①変形」「②戦闘」「③探索」で構成されていますが、一番大事にしているのは『変形』です。新たな『形』を得るたびにそれらに変形できるようになり、プレイヤーは好きな方法で攻略が可能になります。
ウェズリー:各『変形』に固有アビリティやギミックを用意しているので、プレイヤーの皆さんにはぜひその部分を楽しんでほしいですね。

―テーマを「折り紙」にしようとした理由はありますか?
ヤンディー:本作のインスピレーションとなった「折り紙」はコンセプトアーティストが考えたものです。
イーハン:紙を題材としたゲームは他にもありますが、コンセプトアートチームが初期案を見せてくれた時、「これは今までと違うものだ」と感じました。「折り紙」は素晴らしい芸術です。コンセプトとして、その折り紙が動き出す世界ができたら面白いと思いませんか?
ヤンディー:シンガポールスタジオとマレーシアスタジオで企画案募集をした際には40個ほどの案があったのですが、この案が突出して人気でした。みんなが「このゲームを作りたい」と思ったのです。
―40個も のコンセプト案があったのですね!テーマが「折り紙」に決まるまでのエピソードをお聞かせいただけますか?
イーハン:選考にあたり、小規模なチーム且つ稼働状況を鑑みると作り切れるのか?という懸念がありましたが、アートやモーションを作っている当社のアーティストたちには強い自信があり、折り紙の美しさをさらに引き出せると確信していました。
ヤンディー:「Hirogami(ひろがみ)」はフルゲーム・チャレンジ(ゲームの全ての要素を作り切る挑戦)という取り組みから始まり、チームが作りたいものを作るだけではなく、海外スタジオ全体の実力を世界中の多くの方に知っていただくことを目標としていました。
この「折り紙」というテーマならば、メンバーの実力を全面に出せると考え決定に至りました。結果、ゲームシステムだけでなく、ビジュアル面もユニークなものとなっており、目を引く作品に仕上がったと確信しています。

ここを見て・感じてほしい!「Hirogami(ひろがみ)」の魅力
―「Hirogami(ひろがみ)」でここに注目してほしい!という表現はありますか?
燕:では、まずサウンド面から注目ポイントをお伝えしたいです。この作品の音楽は繊細でありながら、緊張感も感じられる表現にしています。それらを表現するために伝統的な和楽器と現代的な音を組み合わせ、今までにない雰囲気を作れるように、常に流動的で動きのあるサウンドを制作しました。神秘的な響きと不思議な展開が「Hirogami(ひろがみ)」の世界を表現できていると思います。
自分は「Zone3 Misty Grove」という、高い場所にある森のBGMが一番好きです。
ヤンディー:架け橋ゲームズさん(本作のパブリッシャー)にゲームを見てもらった際、真っ先に「音楽が美しい」と言ってくれましたね。
―音作りで苦労した点はありますか?
燕:最初はどんな音が本作にマッチしているのか試行錯誤をしました。どういうバランスで和楽器を使ったら良いかなど、いくつかパターンを考えながら作っていましたね。あとは音楽と環境音のバランスも考えながら制作していました。

―ありがとうございます!他にはいかがでしょうか?
イーハン:先ほどもお話しましたが、やはり『変形』のコンセプトに注目してほしいですね。様々な動物の姿に変形するこの独特なシステムと、燕さんの音楽も感じて、私たちが作り上げた 「Hirogami(ひろがみ)」の世界を堪能してほしいです。
ヤンディー:もちろんシナリオにも注目してほしいです。映画製作をしている他社作品の物語の組み方を参考にしており、プレイヤーは純粋にゲームを楽しめると思います。さらにシナリオが気になる方や深堀りしたい方に向けて、深みのある物語を作りました。ぜひ、シナリオの裏に込めた意味を探してみてほしいと思います。 ヒントは「完璧」の意味。それと「創造」でしょうか。ゲームを攻略していくうちに自然と感じ取ってもらえたら嬉しいですね。
―本作の敵は「デジタル」ですよね。アナログの「折り紙」対「デジタル」というのは、開発初期からの設定だったのでしょうか?
ヤンディー:開発の初期段階から決まっていました。ブレーンストーミングで出たアイディアでしたね。先程「折り紙は芸術」と表現しましたが、それに敵対する「冷徹なデジタル」のようなイメージです。また、これはアセットを効率よく使用するためのゲーム開発上の戦略でもありました。折り紙の動物を作ることで、主人公にもNPCにも敵(デジタル)にも使用できます。少人数開発であったことから、こういった工夫も必要でした。
―キャラクターの名前が魅力的だと感じました。どなたが名付けを行ったのですか?
ヤンディー:開発メンバーがローテーションでキャラクターの名前をつけました。実は種族に命名規則があって、はじめて見た名前でも何族かわかるようになっています。みんなで楽しく名前をつけましたね。例えばカエル族にはカエル特有の名前があり、アルマジロ族もそう。また、尋(ひろ)や紙折(しおり)のようなヒト型キャラクターにも名付けのテーマがあります。
折り紙の「重さ」を調整!?「操作感」へのこだわり
―アクションゲームとしてこだわったポイントはありますか?
ウェズリー:ぜひ注目してほしいのは「操作感」です。プレイヤーにとって「キレのある操作感」にしましたが、同時に『変形』の個性を保つようなバランス調整を行いました。例えば「エイプ」に変形したときは、「アルマジロ」より重く感じるようにするとか。チームで打ち合わせを重ねて、パラメーターを調整しました。また、アクションアドベンチャーゲームである以上、プレイヤーが理不尽に感じず、楽しく遊べることにこだわりました。
イーハン:また、操作感が作品のアイデンティティを阻害しないように気を付けました。例えば、すべての調整で操作感を優先してしまうと、折り紙が変形するシーンの魅力が薄れてしまいます。また、変形シーンを見せたくてスローにすると今度は操作感が損なわれてしまいます。この部分のチューニングにも時間をかけました。製品版の操作感ではキャラクターの変形も楽しみつつ爽快さも損なわれていないので、ぜひそこに注目してほしいです。
ヤンディー:プレイヤーが遊んでいて理不尽さを感じないという部分にもこだわりました。ミスをしても理不尽に感じないことはアクションゲームにとってとても重要です。ただ難易度を上げるのではなく、難易度を上げつつも解決方法を上手く提示することで、プレイヤーが挑戦し続けたくなるようにしました。もしミスをしたとしても、遊び続けることで上達し、やがてそのコンテンツをクリアして、喜びや達成感を抱いてもらえたら嬉しいです。

―「Hirogami(ひろがみ)」が完成するまで、どのような苦労があったのでしょうか?
燕:タイトなスケジュールの中でたくさんのアセットを作るのが大変でした。さらにサウンド1つ1つを調整するのが大変で、デバッグにも時間がかかりました。一番大変だったのが距離減衰の調整でした。
「Hirogami(ひろがみ)」の世界には沢山のギミックがあって、例えばこの場所で聞こえるはずのものが聞こえなかったり、逆にここでは聞こえないはずの音が聞こえたり、音が干渉するとプレイに支障が出ることになるので、音量や距離の調整で時間がかかりましたね。
イーハン:私たちが作りたい「Hirogami(ひろがみ)」を限られた時間と予算で完成させることが大変でした。開発初期では『変形』の数はもっと多い予定だったのです。限られたリソースの中で、どれだけ理想に近づけながら一定のクオリティを保つか、といったところに苦労を感じました。
ヤンディー:私の場合、一番苦労したのはゲームの開発だけでなく、この作品をどうやってプレイヤーに届けるか、という点でした。架け橋ゲームズさんとの出会いにより、「このゲームをどう完成させるか」だけではなく 、「どうやって市場に出すのか」といった知見もいただいています。
「東京ゲームショウ2024」で見たユーザーの反応
―「Hirogami(ひろがみ)」は「東京ゲームショウ2024」で試遊出展されましたね。試遊された方々の反応はどうでしたか?
イーハン:私は現地には行けなかったのですが、シンガポールにいたメンバーはプレイヤーの反応をすごく楽しみにしていました。ブースが一日中にぎわっていたと聞いて、チームみんなでとても喜びました。プレイ時間の短いデモ版にもかかわらず、Steamのウィッシュリストに登録してくれた方が多く、自信に繋がりました。
ウェズリー:私は現地にいました。イーハンさんが言ったとおりブースにはほとんど空きがなく、プレイヤーの皆さんが楽しそうにプレイしてくれました。試遊はしなくとも足を止めてチラシを受け取ってくれた方も多く、用意したチラシは全部配りきりました。チラシは架け橋ゲームズさんとアートスタッフで良いものに仕上げてくれました。デモ版のフィードバックはきちんと製品版に反映しています。とても良い経験になりました。
燕:自分が昨日触っていたデータがもう世の中に出て試遊されているのは、とても不思議な気持ちでした。もちろん自分が作曲で携わった作品を実際にプレイしてもらえたのは嬉しかったですね。お客様からも音楽が良いというコメントをいただけて、とても励みになりました。

―その他、「Hirogami(ひろがみ)」に込めたこだわりなどがあれば教えてください。
燕:私は日本で作曲をしていました。常にチームメンバーと約5000km離れているのに、心強くて素晴らしいチームでした。「Hirogami(ひろがみ)」は小規模なチームなので、色々な役割を担いながら様々なスキルを獲得しました。不安もありましたが、最後までやり切った事は自慢したいです。自分のありのままのサウンドを全力で出し切れた機会でもあって、とても貴重な開発経験ができたと思います。またこのチームで新しい挑戦ができたらいいなと思います。
ウェズリー:私はプレイヤーの皆さんにこのゲームを楽しんでもらえたらと願っています。チームの血と汗と涙の結晶とも言えますから。それに、「Hirogami(ひろがみ)」で得た経験を会社全体に共有することで、次のプロジェクトにも活かせると思っています。今回の取り組みが次への大きな自信に繋がりました。
イーハン:「Hirogami(ひろがみ)」は関わった皆の努力によって生み出された作品です。ある意味私たちだけの力で世界に「遊び」を提供したと言えるかもしれません。折り紙というたった一枚の正方形の紙は様々なものに変形できますから、遊んでくれる人もこれをきっかけに『変形(変化)』していただけたらいいなと願っています。
ヤンディー:私たちだけで新規IPを立ち上げるというのは滅多にない機会です。特に最近は続編タイトルや、既存IP、古いIPのリメイク版が多かったので、「Hirogami(ひろがみ)」という新規IPを作り出したことを会社としても誇れるようになれればいいと思います。



「Hirogami(ひろがみ)」チームからユーザーの皆様へメッセージ
―最後に、本記事を見ていただいている方へメッセージをお願いいたします。
ヤンディー:この作品は「Hirogami(ひろがみ)」チームでないと作れなかった作品です。どんなプロジェクトでも思い通りにいかないことは多々ありますが、信じて進めば必ず形になります。ゲームに込めた物語にも通じるのですが、私が大切にしているのは「諦めないこと」、「完璧とは欠点がないことではない」という考え方です。もしかしたら「完璧を追い求める」というのは「常に前の自分を超える」ということかもしれません。
イーハン:折り鶴を作る時に、折り目がずれるとか、何かしら完璧でない部分が出てきますが、これは仕事にも同じことが言えると思います。ゲームを作っている時に、例えばビジュアルやゲームシステムの面で、どうしても作りたいものがあるけど、完璧に作り切るリソースがない、というのはあるじゃないですか。だからこそプレイヤーの皆さんに伝えたいのは、「不十分」からも美を見出してほしいという事ですね。また、人生の何気ないことにも喜びを見つけてほしいです。
ウェズリー:このゲームを楽しんでいただけたら本当に嬉しいです。きっとどんなゲーム開発者にとっても、プレイヤーが楽しくゲームを遊んでくれることが何よりの喜びだと思います。ぜひ楽しんでプレイしてください!
燕:「Hirogami(ひろがみ)」は本当に皆の力を合わせていろんな思いを込めて作り上げた作品です。世界感、サウンド、ストーリー、すべてに私たちの情熱がこもっています。プレイヤーの皆さんにはこの世界を覗いてみて、楽しんで、遊んで、何か心に残るような体験をしてもらえたら嬉しいです。
―貴重なお話、ありがとうございました!

発売予定日:2025年9月3日(日本:9月4日)
プラットフォーム:PlayStation®5 / STEAM® / Epic Games Store
■パッケージ版
発売予定日:2025年10月23日
プラットフォーム:PlayStation®︎5
©Bandai Namco Studios Inc.
© 2024 Bandai Namco Studios Singapore Pte. Ltd. All rights reserved. Developed by Bandai Namco Studios Singapore Pte. Ltd., Bandai Namco Studios Malaysia Sdn. Bhd. Published by Kakehashi Games