インタビュー

『アイドルマスター ミリオンライブ!シアターデイズ』ができるまで(後編)

『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』ができるまで(前編)に続き、『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』ができるまでの開発エピソードをお届けします。
後編では、キャラクターの個性がもつ魅力へのこだわりなど、クリエイターの開発エピソードをご紹介します。


『アイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズ』の開発を担当するプロジェクトメンバー紹介
柿沢 高弘 ゲームデザイナー/『ミリシタ』企画・開発プロデューサー
土濱 健太郎 ゲームデザイナー/『ミリシタ』企画・開発ディレクター
田宮 清高 デザイナー/『ミリシタ』アートディレクター
池田 早人 プログラムエンジニア/『ミリシタ』クライアントプログラムリーダー
佐藤 貴文 サウンドデザイナー・コンポーザー/『ミリシタ』サウンドディレクター
東 義人 ゲームデザイナー/『ミリシタ』コンテンツディレクター、シナリオ統括
久保 賢一朗 ゲームデザイナー/『ミリシタ』ライブ監督

キャッチボールをしながら作りあげていく「変化を続けるコンテンツ」

■受付小町

小町: 『ミリシタ』では運営型タイトルのフットワークの軽さを生かして、「対話」を重視して開発に取り組んでいるそうですね。

土濱: 運営型のコンテンツ、特にこの『ミリシタ』では、こういう状態が100点です、というものは「無い」と思っています。
一年後にはこういうアプリになっています、というのもあまり決めたくはないですね。それってファンの皆さまとのキャッチボールが出来てない状態なのかなと思っているので。
当然自分たちでが良いと思う点はどんどん取り入れていきますが、一方で、プレイヤーの皆さまの「こういうものをやってみたい」とか、「こういう世界を観てみたい」という声と比べてみた時に、僕らが予定していたものとはどうやら違うほうが今のコンテンツには合っているよね、という風になったとしても良いと思っています。僕自身も一ファンとして変化を楽しんでやっているので、それで出来たものが最高のものになっていれば、それがゴールで良いかなと思っています。

●柿沢 高弘(かきざわ たかひろ)
ゲームデザイナー/
『ミリシタ』企画・開発プロデューサー

柿沢: スマホの市場ってすごくユーザー層の広い市場なので、そこで今やれるのは新しいファンの皆さまに『ミリシタ』を知ってもらういい機会。『ミリシタ』としてもすごく幸せなことなのじゃないかなと思うのです。
その中で、元からのファンの皆さま+新しいファンの皆さま両方に向けて『ミリシタ』を作っています。元からのファンの皆さまの期待を裏切ることなく満たしつつ、新しいファンの皆さまにもブランドを新しく作っていく。ファンの皆さま全体のことをよく見て顕在化しているニーズを拾うことはやりつつも、潜在化しているニーズにも訴えていきます。プレイしていただいて「あ、こういうの欲しかったんだよ」って言われるような、気付いていない部分の更新ですね。

土濱: 「リハーサル」という、ライブパートのリズムゲームを練習するためのモードを作ったのです。そしたら「練習なのだから、アイドル達はジャージを着ているべきだ!」と言われまして(久保さんを指さす)。「なるほど!」と。そういう意見が出てくるのが楽しいですね。結果、「おお、ジャージ着ている!アイドルの違う面が見られるから嬉しい!」という声や反応を頂くこともできまして。みんな「こうやったら面白いだろうな」っていうアイデアをちゃんと内々に持っていて、隙あらば投げつけようという、このテンションがすごくいいなと思います。

東: あの派手なステージの裏にはこんな苦労、練習過程があるんですよ、といういい意味での「ストーリー性を与えてくれたな」と思います。表現の差によって、本番がより輝いて見えるんですよね。

小町: アイドル達がステージに立つまでの物語は、「コミュ」モードでも丁寧に語られていますね。

©Bandai Namco Entertainment Inc.

東: 「メインコミュ」というストーリーあるんですけど、「ある女の子が初めてセンターとして舞台に立つことになりました!」という体裁が決まっているものですから、シナリオの展開が似てしまいがちなんですね。皆さまには常に新しい体験をしていただきたいので、どう魅力を増していくかというのがいつも悩みどころです。その子の魅力がひき出せる一番面白いエピソードを生み出す、描くべきポイントを複数探し出して、それを繋げて一つの物語として紡ぎだす。いつも大変で苦労するのですけど、感想や鋭い意見をいただいたり、感動してもらえたりすると次も頑張ろう!という気持ちになりますね。

小町: プレイヤーとアイドルがふれあう「距離感」にも気を配られているそうですね。

東: プロデューサーさん(=プレイヤーさん本人)のキャラクターをしゃべらせるときは「セリフ」の言葉選びにとても気を遣います。自分の代弁者としての一体感を阻害しない範囲で、アイドルの助けになるアドバイスをさりげなくしてあげたり、可愛いボケにはちゃんとツッコミをいれて引き立ててあげたり、最後に話を総括するオチとして、すがすがしい読後感を与えられる言葉で締めくくったりしなければいけない。「締めの一言」や「ボケの一言」で一日悩んでしまうことも。すごく試行錯誤しながらやっています。

小町: しかもそれを、登場キャラ全員分!会話相手のキャラクター性に合わせてですものね。気が遠くなります。

アイドルひとりひとりの個性を丁寧に作り込んでいくキャラクターメイキング

土濱: 『ミリシタ』のセルルック(※3)ってこれまでの家庭用の「アイマス」とも違う表現になってますよね。ビジュアルとプログラムで3Dレンダリング表現をじっくり煮詰めてましたね。

※3: セルルック
3DCGをセル画(2D)のように表現する手法

田宮: 家庭用で大事にしていた「アニメをそのまま映像として作るのではなくて、3D空間というものを意識させたセルアニメ調の表現」を意識しました。 手書きだけではない光や影の表現であるとか、スマートフォンだとなかなか厳しそうな映像表現をエンジニアさんと協力して実現した「立体感や空間を感じる表現」になっていると思います。

池田: エンジニアとしてはシェーダーをどう書くかが課題でした。キャラクターの輪郭線をどう取るか、陰影をどう出すか試行錯誤しましたね。ピュッと出た髪の毛をどこから見ても影が綺麗に出るようにする「アホ毛シェーダー」とか。そういうモデルの部分部分のシェーダーなどをいくつも考えながら書いていたので、処理負荷の軽減とも戦いながらギリギリまでやっていましたね。

小町: 本当にスマートフォンでこんなすごい映像が動くんだ!とびっくりしました。

©Bandai Namco Entertainment Inc.

田宮: 『ミリシタ』では事務員の美咲ちゃんを入れると53キャラ、それを全部3Dで表現することになりましたが、カードイラストの2Dイメージを良いバランスで再現できたと思います。
表情や動きについても、家庭用のノウハウをベースにしつつ複数のキャラでもデータが膨大にならないように、モーション班、スクリプト班と工夫して各キャラを表現できたと思います。

小町: ライブ中の歌に感情を込める時の顔の表情とか、すごく繊細な表現が出来るところまで作り込まれていますよね。家庭用の長年の経験から表現の幅が考慮されてバリエーションが出来ているのですね?

田宮: 家庭用もシリーズ毎にだんだんパターン数が増えていってまして。「アイドルマスター2(※4)」の頃になると初期の倍くらいになっていて。しかも登場する13人全部がバラバラの特注で(笑)。今回、53人が登場する『ミリシタ』ではある程度共通化している部分もありますが、スクリプターと相談して大事にしたい部分はしっかり残し、家庭用にも劣らない豊富な表現が可能となっています。

※4: アイドルマスター2
バンダイナムコエンターテインメントが2011年に発売した、家庭用ゲームソフト。
http://bandainamcoent.co.jp/cs/list/idolmaster/im2/

柿沢: 「アイマス」をずっと作り続けてきた歴史は、まさにいい味を出すための伝統工芸ですね。

田宮: 家庭用から引き継いだ技術としては、「着替え」のシステムとか。様々な体型のアイドルに合わせて衣装が最適化されるシステムです。

柿沢: 『ミリシタ』では、アイドル52人全員がすべて違う体型で作られているのがポイントですよね。

久保: 身長差がある子でも、カメラワークで高さがしっかり補正される仕組みが当たり前のように入っていて、僕は楽でしたね。家庭用のメンバーがすごいのは、今までの知見で全部用意してくれているところです。まいりました。

●田宮 清高(たみや きよたか)
デザイナー/『ミリシタ』アートディレクター

田宮: 『ミリシタ』ではカードのグレードに最高クオリティのSSRカードを設けています。
SSRでは特別の1枚、オリジナル感というところを重視してイラスト調の塗りへ決めました。
髪や瞳の表現、背景の空気感など表現は豊かになって高品質を出せたと思います。
カード制作では、ポージング・表情など「キャラクター性」を表現できるようにスタッフはこだわって制作しています。

小町: カード絵とフレーバーテキストを見るだけでも「この子はこんな仕事を緊張しながらやっている」とか、「この子たちの日常にはこんな一面があるんだ」とか、キャラクターの厚みや世界観の豊かさが伝わってきます。相当いろんなものの取材や資料を集めないと、これ描けないだろうというものがたくさん有って。シナリオ面も含めてスゴイ蓄積が感じられます。

東: キャラクターコンテンツは「キャラクターの個性が魅力そのもの」だと捉えていて、それを如何にして担保しつつ、その魅力を引き出すシチュエーションや台詞を生み出すかを特に大切にしています。同じシチュエーション、同じキャラクターでも切り口というか、光を当てる角度を変えるだけで、全然別の顔が浮かんできたりしますね。

佐藤: キャラクターの個性はサウンドでも一番重要視していて、こだわりを持ってやっています。キャラクターの楽曲の曲調はもちろんのこと、「この子なら、この歌をどう表現するだろう?」「この子とこの子だったら、こういうことやるよね?」みたいな個性をシナリオやビジュアル同様にしっかりと掴みながら、歌の収録を行っています。ただ上手く歌うのではなく、そのアイドルがステージで生き生きと歌っている姿を、音だけでも想像出来るようにするのが大事ですね。東さんのキャラクター班をはじめとしていろんなセクションの方と相談しながら、シナリオやライブ演出とも絡めて総合的に作っています。そういうところが「チームみんなで作っている魅力」だと思いますね。サウンドだけでは出来ない演出というものが作れるので、やっていてすごく楽しいです。

小町: セリフはフルボイスだし、口の動きもリップシンクで合わせているし、とてつもない仕事量です!

●佐藤 貴文(さとう たかふみ)
サウンドデザイナー・コンポーザー/
『ミリシタ』サウンドディレクター

佐藤: サウンドの仕事は、楽曲やBGM、効果音制作もそうですし、ボイスや歌など収録もいっぱいあります。
「アイマス」ならではの魅力として、収録ではキャストさんと一緒にキャラクターを作っていく面白さがあります。あらかじめ明確に「このキャラクターはこうだから」という正解があるわけでは無くて、僕らもキャストさんも、このキャラをどうしていこうか?と、一緒に考えながら成長させていっている部分があるんですよ。「まあこうでしょう」では無く、「あ、そういう表現もいい!」「今までにない魅力!」というものを常に模索しています。運営しながらキャラクターの新しい一面を発見して、成長させていくのが楽しいですし、やりがいがあります。

スタッフをも惹きつける、アイドルマスターが持つ求心力とは?

小町: 『ミリシタ』のためにものすごい、今日この席に来ていないスタッフの皆さん含め、ものすごい熱量を注ぎ込んで毎日運営されているわけじゃないですか。そこまで心血注ぎ込めてしまう「アイマス」が持つ求心力って何なのでしょう?ずーと、業務用を作っている人達を見たその頃から、「いったいこれはなんなんだ?」という疑問があって。

東:「アイマス」の曲を作っている中川(浩二)さんが以前にも仰っていたのですけど、「アイマスって不思議なコンテンツで、作っている側の人がいつの間にかアイマスのことを好きになってしまう、不思議な求心力を持っている」と。僕もその一人です。
さらに、「こんなにファンの皆さまの顔が近くで見えるコンテンツは初めて」という驚きもあって。たぶん、あの人たちを喜ばせたい!というテンションだけで僕は作り続けていると思います。

佐藤: モチベーション上がりますよね。

久保: 普通のゲームよりも意見や感想を言ってくれるアウトプットがすごいじゃないですか。ファンの皆さま自身がすごく「アイマス」を盛り上げてくださいます。僕もそういう皆さまを感じるのは「アイマス」が一番だと思います。

東: 「アイマス」ってキャラクターの個性をぎりぎりリアリティを持った女の子として描いてきていて、シナリオ的にもゲームシステム的にも実在しているように感じさせる作りになっていますよね。「ステージでこの子がセンターに立つなら、きっとこの子とこの子も一緒に歌うよね、ならばこの選曲で、この歌い分けで」という具合にプレイヤー=プロデューサーさんの中で、ちゃんと想像を膨ませていける実在感。そういうリアリティに業務用の頃からこだわり続けているところも、皆さまに愛される理由かもしれないですね。

久保: 「プロデューサー」という言葉がすごい発明だなと思って。言葉をかみしめました。プレイヤー、ファンの皆さまご自身がプロデューサー、送り手というか作り手というか、そういう立場の人としての役割を与えられているわけで、アイドルだけじゃなくて「アイマスというコンテンツ自体を育てる」みたいなところがあります。

東: 「ヒロイン=アイドル」の成長を助けてあげてください!と言われたプレイヤーの立ち位置もそうですよね。

佐藤: 開発者としても「自分もファンとして好き!プロデューサーとしてアイドルを、アイマスを輝かせてあげたい!いろいろやってあげよう!」という思いが湧いてきますね。

田宮: 開発プロジェクトに入ってキャラクターに触れて、あ、このキャラクター好きかもとなって。それで、自分自身もプロデューサーになっていて(笑)だからこそ、もっとこの子を輝かせてあげよう!みたいな。そうするとお客さまの気持ちとどんどん繋がっていって、このコンテンツがますます好きになっていく流れなのかな。

小町: 作り手自身もプロデューサーであり、お客さんであり。そうなっちゃう。面白いですよね!

佐藤: 久保さんの熱い思いもそうですし、僕の思いもそうですし、他のいろんな方々も思いを持っていて、「ここはこうしたい!」「それ、作るのすっごく大変なんだけど、僕もやりたいからやりましょう!」みたいな良いサイクルになっていて。良いサイクルの中で作られたコンテンツが世に出ると、プレイされているプロデューサーの皆さんにも伝わるんですよね。その反応を見ると、よし、次もやってやろう!という、良い循環が生まれている気がします。

池田: 僕はもともと「アイマス」に詳しくなく、キャラクターとか最初全然掴めていなかったのですけど、分かるようになると「この子かわいいな」「この子、面白いからシナリオの先を見てみたい」「この子のカード欲しい」っていう、ほとんどプレイヤーと変わらない立場で遊びながら作っています。新しい提案があった時に、「これおもしろいから、やる!」という盛り上がり方がハンパなくて。ギリギリのスケジュールであっても「これだったら多分、1日ぐらいで実装出来て、何とかなるんじゃないですかね!いきましょうか!」みたいな。ちょっとしたアイデアでコレ、さらに面白くなりそうだね、これ絶対みんな面白いって言ってくれるよね、っていうアイデアはエンジニアみんなノリノリで実装していくのです。現場を見ていてすごく面白いですね、日々驚きと盛り上がりがあって。

佐藤: 『ミリシタ』チームもそうですけど、ホントに皆さん「アイマス」のことが好きですよね。『ミリシタ』を開発している人たちは、みんな『ミリシタ』のことが好きでプレイしていますし。

柿沢: 開発端末でもさんざんやっているのに、さらに自分の個人スマートフォンでもやり込んでいて。

土濱: すごく「アイマス」というコンテンツに助けられているなーという感覚を持っています。もともと好きな人が集まって作っているとかではなくて、もともとは興味が無かった人でも、一緒に開発や運用を続けていく中で気づいたら「アイマス」を好きになっていて、『ミリシタ』というコンテンツに対しても主体的に取り組んでくれる。関わるメンバー全員が日々もっとここは改善を図りたい!今後はもっとこうしていきたい!と思ってくれる環境の中で仕事ができていることはクリエイターとしてとても幸せなことだと思っています。

小町: メンバー全員が「アイマス」好きになり、好きだからこそ最高の作品を生み出し続けられる。最高な開発チームで素敵だと思います!
今後の『ミリシタ』の展開に期待しています。皆さん、本日はどうもありがとうございました。


アイドルマスター

バンダイナムコエンターテインメントの製品
©窪岡俊之 ©Bandai Namco Entertainment Inc.

アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ

765プロライブ劇場を舞台に、「765 ミリオンオールスターズ」のアイドルたちをプロデュース! ステージでのライブやお仕事、劇場でのコミュニケーションを通じて、 アイドルと「もっとふれあえる」要素がもりだくさん!

オフィシャルサイト
https://millionlive.idolmaster.jp/theaterdays/
配信元:バンダイナムコエンターテインメント
Ⓒ窪岡俊之 ⒸBandai Namco Entertainment Inc.

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