『BanaCAST(バナキャスト)』ができるまで(前編)に続き、『BanaCAST(バナキャスト)』ができるまでの開発エピソードをお届けします。
後編では、「ライブエンターテイメント」をつくっていく醍醐味や、実際のライブステージを乗り越えるまでの苦労点や想いなど、チャレンジをし続けるクリエイターの開発エピソードをご紹介します。
●森本: TGSシークレットライブと同時並行で、Zepp東京で行われるアニメのイベントでEGOISTさんがゲストとして1曲だけ生でシンクロして歌う、というものを進めていました。システムは大体一緒だったので、新たに準備するものはそんなに無かったんですけど。本番ではすごく重たい経験をすることになったのです。
ある意味、生のお客さんの前でやるのはそれが初めてでした。TGSシークレットライブは生とはいっても、あくまでTGSに来てくれている不特定多数のお客さんでした。今回は、それを観に来てくれている特定のお客さん達の前でやるので。
●大曽根: Zepp東京へわざわざ足を運んでくれたお客さんたちですよね。
●森本: お金を払って楽しみに来てくれているお客さんたちの前で、EGOISTさんを我々のシステムに乗せてやるっていう初めてのイベントだったのですけど、この大事なイベントの、その出だしで歌い始めたら、ヒジの上腕がひっくり返って表示されてしまったのです。
■大森: それは、すぐに対策できました?
●大曽根: お昼の公演に起きてしまったのですが、すぐさま原因の究明にあたり関係者の皆様にはご連絡をいたしまして、その日の夜の公演までには修正することが出来ました。
こういった出来事が経験となって、森本さんのほうでものすごくいろいろな仕込みを組み込んでくれたり、キャプチャチームのほうではカメラの位置を変えようとか考えてくれて信頼性の高いシステムに作りあげていくことが出来ました。
●佐俣: アクターさんへのマーカーの取り付け方であったりとか、アクターさんの動きを観察してキャリブレーション※1の仕組みを工夫したりとか、結構アナログな作業と経験の積み重ねで完成度を上げていきます。
※1:キャリブレーション
光学式モーションキャプチャで人物の動きをキャプチャする場合、アクター(役者)の身体各所にマーカー(目印)を取り付け、複数方向に設置されたカメラからマーカーの動きを検出・解析することで行なわれる。キャリブレーションとは各マーカーの3次元位置を演算するために、複数カメラ同士の相対位置から3次元座標を決めていくこと。
■大森: すごくノウハウベースの改善ですね。
●大曽根: 改善を進めると同時に、技術的にこうしたいとかよりも、アーティストさんとしてライブとかイベントで表現したいものっていうのを何にしたいのかっていうことに、興味がどんどん切り替わった時期でもあります。EGOISTというアーティストさんがキャラクタとして表現したものを、いかに表現させることができるか?単純に技術的にどうこうではなく、アーティストさんが「どう表現をしたいか、何を表現したいか」っていうところに重きを置かなきゃいけない。それをいかに実現できるか?僕らが実現、用意できるか?です。
■大森: サービスとしても一段上のステージへ上がったってことですね。
「実現をしよう」から「より良いもの」へと。
●森本: 最初の頃は、やるだけでも精一杯でした。新しい遊びを提供したいとか、キャラクタと一緒に遊びたいっていう部分と技術的にこんなことが出来るっていう部分への興味の中で。
●大曽根: アーティストさんがやりたいこと、観に来てくれる方たちに何を届けたいかっていうことを、考えられる時期だったのかもしれないですね。EGOISTさんというアーティストと関わることでもう一段アップできたのです。
●大曽根: シークレットライブ、アニメのイベントを経て、次が全国ツアー、EGOISTさんが5都市6公演、全国廻るライブツアーです。このときまたCG制作っていうのをもう少し中身増やさなきゃいけない、というのがありまして、社内の人にも協力いただきながら作っていきました。
最初がZepp東京でやらせていただいて。EGOISTさんのファンばかり2,000人いる中でやる、「一公演2時間半ぶっ通しのライブになります」と。
トラブルを想定したバックアッププランを考えるため、ライブイベントの映像屋さんと一緒に仕組みを相談しながら、森本さんのほうでうまく仕込んでいって挑みました。
●森本: 「全国ツアーで2時間半ぶっ通しでやる」っていうものを成功に導くためのステップアップは、大きな経験になりました。とにかく同じことを10分やることは出来ても、それを2時間半やるというのは、かなり周到さのレベルが上がらないと出来ない。大変でしたけど、我々としては収穫として大きかったかなあと思っています。
●大曽根: ステージ最中、キャラクタを表示するところのライブオペレーション的な役割があって。そこは森本さんや深渡瀬さんが担当していました。
●森本: 実際のライブだと、ただ絵を出していればいいわけではなくて、演出に合わせた操作が必要になります。これまでは自分でプログラムを作って操作も生で担当していたのですが、長丁場のツアーをしっかりやろうと考えると、自分はちょっと退いた目で次のことを考えられる役割じゃなければいけない、と考えまして。「これちょっと憶えて!やってよ。」って深渡瀬さんに期待を込めて無茶振りをしました。
■大森: というのを全国ツアー開始前日に!?
●森本: もちろん、僕は隣に座ってですね、もし間違えそうになったらアドバイスもするし、といった感じで。今はもう深渡瀬さんにステージは任せています。
●深渡瀬: 最初は緊張しました。
●大曽根: Zepp東京で最初スタートして、次が大阪です。
■大森: 大阪の次は名古屋ですね。
●大曽根: そうです。名古屋公演後、再度東京へ戻ってきて東京公演、札幌公演、福岡公演をやってという形で全国を一周廻らせていただいきました。
●森本: ツアーを通してやらせていただいて、「ミスはゼロにはできない」と痛感しました。僕ら人間のやることですし、パソコンだって叩けば壊れます。なので「ミスした時にどうリカバーするか」ということにすごく神経をつかうようになりました。
■大森: 変な話、ライブって全く予定調和でいいのであれば、録画してキャプチャデータで撮っておけばいいって話ですよね。
●森本: ちょっとしたアクシデントとかも有りつつの生の感覚、というのをお客様も観に来ているはずなので、そこを如何に、魅せるか?ですよね。
■大森: ステージ上の演者さんがつまづいたのを、アッって言って立て直したり、ココから頑張るよ!と言って、やってくれたところに初めて「そこに居て良かった!」という実感があるかなと。「ミスを味方につける」って言い方はおかしいけれど、「アクシデントを乗り越えられる」ようになると、より強みになるのでしょうね。
●大曽根: その後、今度は海外公演を台湾のほうでやる、というお話しをいただきました。海外公演ということで国内とはまた違う環境となり、機材もすべては持ち込めません。現地で手配してもらわなければならないものもあって、佐俣さんにも「これで大丈夫?これで大丈夫?」と機材をチェックしてもらいながら。
●佐俣: 持ち込みは最小限に抑えて出発したのですけど、「これ、用意してください」って送っておいたリスト通りには揃っていなくて…。集合時間に合わせて受け取りに行ったら、「ケーブル?これから作るよ!」みたいな…。
●大曽根: 国内はデスクトップのPCでやっていたのですけど、海外ということで機材もすべてノートとか、運びやすいものに機材を変えて、全国廻りやすいと、持ち運びやすい環境を整えていきました。
●森本: 社内での技術展示から始まって、イベント、ライブツアー、海外公演と異なるチャレンジを重ねてきたので、その部分でのノウハウをどんどん貯めていけているのはすごくいいなと思っています。
■大曽根: 2016年の10~11月頃、翌年1月公演のアイドルマスター(以下アイマス)※2のライブでもやってみたいというお話をいただきました。僕らが一番最初に社内で「こんなことやりたい!」と言っていたときに、「アイマスのライブに、キャラクタを立たせてみたいよね」と勝手に言っていました。「ああ、これで実現できるなあ」と。ただここには技術的に乗り越えないといけない問題がありました。絵を出す仕組みの部分については、ほとんど新規で開発しなければいけなくなりました。これまでのサービスより、ちょっと先の部分が必要になったのです。様々な方に協力してもらい、キャラモデルをライブで使えるようにしていただけました。
そして迎えた2017年1月、「THE IDOLM@STER PRODUCER MEETING 2017」です。東京体育館という大きな施設、9000人がいる!さらにライブビューイングをやっていて全国でホントに多くの方たちが見ている!というところで、「出だし」のパートでキャラクタを出しました。
※2:アイドルマスター
プロデューサーとしてアイドルを育成するバンダイナムコエンターテインメントのコンテンツです。
(C)窪岡俊之 (C)Bandai Namco Entertainment Inc.
■大森: 大変好評だったようですね。
■大曽根: ライブでの実施は声優さんも面白がってくれました。そして、ライブ当日、最初におそらくお客さんが見た中では、映像を流しているのではないか?と思っていた人がいたと思うんですね。でも途中で何か違う、と気付いた人たちがいたのですね。アレッ?っていう。そのあとに声優さんが出て行くトークの中でご説明していただいたので、2日目はみんなもうだいたい知っている。これはライブでやっているって! 2日目の方が、僕らやる側の方も演出的なところでも、ライブ感覚な形のシチュエーションを作ることが出来たので、お客さんにとってすごく面白いものを魅せられたと思います。BNSがキャラクタに愛情を注ぎこむ情熱から作り出す、技術の結晶です!
■大森: このような技術があって、アイマスでやりましょうっていうことになると、全部を『BanaCAST』で、全部CGキャラにしちゃおう、と企画をスタートさせてしまうパターンもあるじゃないですか?キャラのうち一部だけとか、声優さんとミックスさせているところがすごく「未来感」を感じます。
■大曽根: 「声優さん」のときもあれば、「キャラも出てくる」こともある、みたいな。遊ばせ方というか、遊び方が増える。手段が増やせるっていうところに使ってもらえたらと思っています。
■大森: 観ている人は声優さんのときも、頭の中では半分ぐらいキャラになったり、声優さんのための応援になったり。ライブに来ているファンの人たちは、結構行ったり来たりしながら観ているのだろうから、どっちかに固定してしまうよりも、なんかこう、混ざってフワフワ替わっていったほうが、なんか生ナマしいというか、面白いのではないかなと思います。
■大曽根: キャラクタのライブ「も」、出来るようになる。という。新しい演出が出来るのではないかと。
■大森: そういう意味ですごく可能性を感じました。
■大曽根: お客さんから見ても、自分たちの掛け声に合わせて何かをしてくれたりとか、リアルにキャラクタと遊べるっていうのはすごく面白いと思うのです。僕らが思っていたより、実際僕らが面白いって思っていたものを、やっぱり面白がってくれている。
■大森: ライブがいいなあと思ったのは、「ライブ」って一期一会。「失敗ですら自分のモノにして前に進む」世界だから、やってみて、あ、受けが良くないな、と思ったら変えて。思ったよりいける!とかいうので「試していける」っていうのはすごくいいですよね。「興行」っていうのはまさにそういう良さがある。
■森本: お客さんの反応がその場で直に感じられるので、すごく、新鮮ですね。
■大森: じゃあ、最後に、今後の野望をそれぞれお聞かせください。
■大曽根: 「キャラクタライブ」というものが流行りつつある時代の中で、『BanaCAST』では多くのことが実現できているので、次はより多くのコンテンツに。より多くのお客様に楽しんでいただけるものを提供していきたいです。
色々な仕込みを同時並行でしている状況で、もっとアーティストさんが表現したいこととか、表現したい、させてあげたいという中で、新しい技術開発を仕込んでいく必要があります。
■大森: そうですね。これからも他にはないBNSの新しい技術を提供しつづけたいですね。
■大曽根: コンテンツによって「見せたいもの」はそれぞれ違ってくると思うんです。より多くのコンテンツに広げていくために、それらに応えていく力を身に着けておきたいですね。
■森本: 世界的な注目が集まる祭典、東京オリンピックの開会式!!大会中のイベントを『BanaCAST』で盛り上げたいです!
■佐俣: モーションキャプチャの技術って、組み合わせによって、どんどん面白いことが起きると思っています。今回のようなキャラを動かす以外にも、まだまだ僕らも気付いていないような使い方があると思うので、探っていくことを意識しながらやっていきたいと思います。
■深渡瀬: もっとこう、「繊細な表現」とかを、ちょっと追いついていない部分とか表現できるように、「自分が出来るようになりたい」。アーティストさんやアクターさんの表現をデジタルに載せる時の技術として、もう一手二手三手先に。現場でいろいろとお話し、やり取りをさせていただいていると、もっとアーティストさんやアクターさんに繊細な表現をさせてあげたいなと思います。
■大森: みなさん、表現者側の願望をどうしたら叶えることができるかということを考えていますよね。
■大曽根: 特にライブでアーティストさんと一緒に仕事をしていると、アーティストさんのやりたいことを如何に僕らが表現することができるか、っていう。自分たちが想像してこれをやったら面白いのではないか、良いものが作れるのではないかって想像はするのですが、実際外部の人と話してみて「本当の必要なのはこっち」であったりなど、色々と気付かされます。EGOISTさんには本当に感謝!です。
■森本: 『BanaCAST』は、最初の企画を立てた時点からそうなのですが、「ライブイベントサービス」が目的ではないのです。一番の根本として、「キャラクタが、ホントに実在するように感じられて、日々の生活の中で触れ合える機会をもっと増やしたい」ことが目的なんですよ。だから、今はモーションキャプチャの技術が一番のコアになっているのですけど、もしもっと技術がいろいろ進んでいけば、例えばAI(人工知能)だったりとか、別の技術だったりとかを使って、「生活の中へキャラクタを溶け込ます」みたいなことに繋げていけたらなって思いますね。だから本当に全く違う分野の研究であっても、実は、将来的にすごく繋がる可能性もあるので、本当にいろんな人に知っていただきたいと思っています。
■大森: 私も『BanaCAST』の今後の新しい展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
『BanaCAST(バナキャスト)』参考情報
BanaCAST:BandaiNamco Character Streaming Technology
株式会社バンダイナムコスタジオによる、最新のモーションキャプチャ技術と高品質なリアルタイムCGキャラクタを活用したインタラクティブなライブコンテンツ提供サービスです。
本当にその場に実在するかのように反応するCGキャラクタによって、次元を超えた一体感を感じることが出来ます。
CGキャラクタを使った舞台やライブエンターテインメントの創出、CGキャラクタとのインタラクティブな対話や触れ合いを創り出すことが可能です。
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