インタビュー

『テイルズ オブ アライズ』ができるまで(前編)

人気RPGシリーズ『テイルズ オブ』シリーズ最新作として、PlayStation5(※1) 、PlayStation4(※2)、Xbox Series X|S(※3)、Xbox One(※4)、STEAM(※5)にて、2021年9月に発売された『テイルズ オブ アライズ』。開発エピソード第13弾では、「継承と進化」を掲げた本作が、どのようにして従来のファンを満足させるとともに、新たなプレイヤー層の獲得を目指したのか、そのコンセプトや開発の経緯などをお伝えしていきます。
座談会はZoomによるオンライン形式で実施されました。(2022年1月実施)


『テイルズ オブ アライズ』の開発を担当するプロジェクトメンバー

田中 成昌
開発プロデューサー

池上 修司
プロジェクトマネージャー
次世代機版 開発プロデューサー

香川 寛和
ディレクター

岩本 稔
アートディレクター
キャラクターデザイン

小林 弘幸
グラフィックプログラマー

押山 萌香
プロジェクトマネージャー

発売延期と次世代機版対応が生んだ効果

■田中:今回は『テイルズ オブ アライズ』の開発当時を振り返ったお話ができればと思います。『テイルズ オブ アライズ』はかなり長い年月を掛けて開発されたタイトルですが、私自身が開発プロデューサーとして参加したころは、ゲームのパーツは完成しているのに、RPGとして未完成というような状態で「これはまだまだ改良すべきポイントが沢山あるな」と、正直感じたのを覚えています。池上さん、押山さんは同時期に参加して「じゃあどうやって完成させようか?」と話し合ったのを覚えていますね。

●押山:そうでしたね。皆さんの知っている当初の予定は2020年発売予定でしたが、様々な事情によって、結果的には2021年9月発売となりました。

■田中:2020年にはもうひとつ大きなターニングポイントがありまして、Xbox Series X|S、PlayStation5への対応もすべきだろうという話があがりまして。この次世代機への対応も『テイルズ オブ アライズ』において、重要なポイントだったと思います。それと同時に、ゲーム自体のチューニングを約1年間かけて行いました。この1年は、すごく大事だったと思います。
大規模なタイトルなので、社内でもいつ出せるか~、なんてやり取りもありました。

●池上:そこから僕も参加したわけですが、次世代機版の開発チームとしては、我々の作業が発売日を担っている感覚がありました。バンダイナムコスタジオが現世代機版の開発を担当しているわけですが、次世代機版の開発は一部のスタッフと、ユークスさんにお願いすることになりまして。我々のせいで発売日を変えるわけにはいかないぞと、みんなによく言っていましたね。

●香川:発売延期が決まるまで、現世代機版で開発しているメンバーは全速力で走り続けていました。そんな中、次世代機版の開発も並行して進めるのは、無理だったと思います。そこで次世代機版のチームが別に立ち上がって、ある意味ホッとしていました。
ただ、完全にお任せするわけではなく、次世代機版の開発で向上したグラフィックなどを、現世代機版でも見てみるんです。そうしたら開発チーム内でも、「もっと良くできるんじゃないか?」という話になったりして、ブラッシュアップした部分も多いです。お互いのやり取りの中で、全体的なクオリティアップにつながった面もありました。

■田中:ただ、開発期間の延長となると、チーム全体のテンションはどうしても下がってしまいます。そこをどう下げずに、延長が決定したことを伝えていくのか、そのテンションを維持するのかは気配りしました。やはりスタッフには、気持ち良く開発してもらいたいですからね。

●香川:それは感じていました。僕はプロジェクトの途中からディレクターを担当したのですが、ディレクターになった段階で、発売まであと少しで完成させなくてはならないといった状態でした。その時もある程度いいモノができてるんですが、クオリティを上げようにも、もう期間的には完成を目指さないといけなくて。ですのでディレクターの立場的には「ここまでしか絶対に作れないですよ」という気持ちがあったんですね。ただ、プロデューサからも「クオリティを上げないと、お客様に満足してもらえないよ」という意見はあり、一人の開発者としても、重々承知していました。そこをいろいろ調整してくださって、とくに2019年はスタッフ全員で走っていたように思います。

■田中:本当に香川さんたちのおかげで良い作品になったと思っています。

●香川:疲弊した中でも、みんなが踏ん張って『テイルズ オブ アライズ』をより良いタイトルにするぞと、努力してくれました。そのおかげと言っては何ですが、本当に最後まで磨き上げることができたのは、良かったことだと思います。

こだわり抜いたアトモスシェーダー

■田中:『テイルズ オブ アライズ』は、アトモスシェーダーと呼ばれる、絵画のような独特のグラフィック表現を搭載していますよね。これはどのように生まれていったんでしょうか。

●小林:本作は「継承と進化」という言葉を掲げています。これは開発初期から決めたことで、『テイルズ オブ』シリーズの良さを継承しつつも、新たな『テイルズ オブ』として飛躍するための、標語のようなものです。
グラフィックの面からも、「継承と進化」のアプローチしようということで、アトモスシェーダーのような独特の描画方法で、光や影の綺麗さなど、独自の絵作りを目指していました。

Tales of Arise™ & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

●岩本:2015年ごろから、小林さんといろいろグラフィックのスタイルを検討していって、いまのスタイルに決まったのが2016年でしたね。イラスト調ながらも、リアルなところはリアルに描くような、まさに「継承と進化」を目指しました。

●小林:決まった時点ではまだまだ土台しかなかったので、そこから磨き上げつつ、いろいろな表現方法も取り入れていきましたね。

●岩本:じつはいちばん初期は、明るく楽しくポップな画風だったんですよ。イラスト調と言っても、イラストにはさまざまなスタイルがあります。『テイルズ オブ』シリーズの持つ温かさや、2Dグラフィック時の良さを、いまの技術で描くとどうなるのか? というのが発端となり、いろいろな表現の検討を重ね、今回はアトモスシェーダーによる、水彩画のような表現に落ち着きました。

■田中:今回、岩本さんはキャラクターデザインも担当されました。『テイルズ オブ』シリーズとしては初めて、バンダイナムコスタジオのスタッフが全てのキャラクターデザインを担当していますよね。プレッシャーとかはどうでしたか?

●岩本:いやもう、すごくプレッシャーがありました……。ただ、僕はアートディレクターとしての開発者の立場でもありますから、世界観や小林さんの作り上げたものを、最大限にキャラクターの魅力にも活かせるデザインにしようと考えました。たとえば小林さんから「こういった金属の表現がある」、「布でこういったことができる」と聞いたら、それをデザインに取り入れたりですね。
『テイルズ オブ アライズ』の持つポテンシャルを、キャラクターデザインにも反映しました。開発の中にいるからこそ、できたことなのかなと思っています。小林さんが、ビジュアル表現を作る時、どんな苦労がありましたか?

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●小林:本作のゲームエンジンには、Unreal®Engine(※6)を採用しています。非常に優秀なエンジンで、良い面もたくさんありました。ただ、もちろん苦労した部分もあります。そこをどう乗り切るのかは、大変でしたね。たとえば、現世代機版と次世代機版は、使用するエンジンのバージョンが大きく違うんですよ。ですので、両方のバージョンでちゃんと動くものを作らないといけなくて。あとは、マルチプラットフォームでの同時発売展開な点もありました。PC版では問題ないのですが、ゲーム機で動かすと……というのはよくあることで。

●池上:本当に小林さんじゃないと、実現できなかったと思います。現世代機版と次世代機版で、使えるエンジンのバージョンが5つ違うんですよ。感覚的に分かりにくいかもしれませんが、5つ違うというのは、もう遥か未来のバージョンです。その差を理解して、開発を進めなくてはならないなんて、本当に大変なことですから。ユークスさんに開発をお願いしたのも、そこがいちばんの理由なんですよ。じつはそのことを説明したところ、しっかりと対応できますとお答えしてもらいましたから。ちなみにアトモスシェーダーはまだまだ進化している最中なんですよね?

●小林:はい、将来の『テイルズ オブ』展開に向けての研究段階ではありますが、キャラクター表現をより突き詰めて研究中です。

■田中:岩本さん、小林さんの中にも、今回もっとこうできれば良かった、というような表現方法を模索中、という感じですね。

こだわり抜いた末に生まれた高いアクション性

■田中:本作はアクション性の高いバトルが特徴ですが、当初は香川さんがバトルプランナーとして開発していったんですよね。

●香川:はい。自分は開発初期にバトルシステムのプランナーとして入り、開発後半からディレクターを務めました。バトルはシリーズとして、『テイルズ オブ』の新たな世代を生み出すことを狙っていました。システムとしては分かりやすさを重視しつつ、簡単な操作で爽快感の感じられるアクション性を目指していました。理由としては、『テイルズ オブ』シリーズは作品を重ねるにつれて、システムが複雑化してきたなという面を感じていました。そこを直観的に、かつ分かりやすくしようと思ったんです。

■田中:具体的にはどのようなところを変えようと?

●香川:たとえば、敵の弱点を見た目で分かりやすくしたりですね。その上で、弱点部位をアクションの中でうまく狙えるようにしたりですとか。あとは、技のひとつひとつをどうくり出すのかを重視しました。敵の攻撃を見極めることで、味方の攻撃が当てやすくなるなど、ですね。

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●岩本:新しいテイルズにチャレンジしていくために、最初のボス戦から、過去作でいうラスボスくらいクライマックス感を出していきたいとお話しました。それを汲み取って、最初の大ボスである領将ビエゾ戦は、香川さんがド派手にしてくれたと感じてます。

●香川:もうひとつの目標として、敵の脅威感をこれまで以上に強めたかったんです。ですので、初期の段階から、ボス敵はとても大きいサイズにすることを目指していました。それこそ領将ビエゾ戦は、いきなりラスボス戦をやるような迫力を出せて、脅威感の高い敵を実現できたのかなと思います。
ただ、正直に言うと、ボス1体を完成するのに数ヶ月掛かってしまったのは、想定外のことでした。そこは反省点ですね。そのぶん、やり応えのあるボスに仕上がったので、プレイヤーの皆さんもボスの脅威を感じてもらえたのかな、と思います。

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■田中:爽快感を重視する点では、どのようなポイントに気を付けたんですか?

●香川 爽快感は、破壊表現を高めることでブラッシュアップしました。ボスの攻撃で建物が破壊されたりですとか、ド派手な要素を盛り込んでいったんですね。本当はさらに、こちらの攻撃で地面がえぐれたりと、少年マンガのような破壊表現も入れたかったのですが、残念ながらスケジュールや技術的な問題で取り入れることを断念しました。

■田中:なるほど。それらを組み合わせた結果、アクション性の高いバトルになっていったと。

●香川:はい。当初からの「わかりやすさ」を重視する狙いがあったおかげだと思います。あとは、各スタッフがアクションの手触りを追求したからだと思います。当初は、全キャラクターにガードと回避がありました。ただ、ガードですと足が止まり、動きのないアクションになってしまって、爽快感が生みにくいです。そこから、回避主体のアクションに変更しました。そういった調整の数々が、アクション性の高さにつながったのかなと思います。

■田中:たしかに、ガードできるのはキサラだけですね。しかも、パーティーメンバーの個性にもなっていて。

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●香川:パーティーの役割分担をしっかり決めるのは、開発初期から決めていました。ひとりひとりが何でもできるのではなく、仲間それぞれの個性を活かして戦うような、よりRPGらしいものにしたかったんです。
最も分かりやすいところで言うと、キサラは大きな盾を持った、文字通りパーティーの盾役。各キャラクターに役割があるからこそ、盾役のキサラが活きるわけです。そういった部分からキャラクターの特性をしっかり出そうと決めたりもしました。

■田中:傍から見てると、バランス調整は大変だったように見えますね。

●香川:ゲームバランスは、スタッフ全員がプレイしながら「こうしたほうがいい、ああしよう」とみんなで議論して決まっていきました。本作のバトルはそこそこ骨太で、ジリジリとヒリつくようなバランスになっています。そこはスタッフ全員の意見を合わせたことで、生まれた魅力ですね。


オフィシャルサイト
https://toarise.tales-ch.jp/

販売元:バンダイナムコエンターテインメント
Bandai Namco Entertainment Inc.

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(※6)Unreal® is a trademark or registered trademark of Epic Games, Inc. in the United States of America and elsewhere. Unreal® Engine, Copyright 1998 – 2021, Epic Games, Inc. All rights reserved.

「Tales of ARISE」
Tales of Arise™ & ©Bandai Namco Entertainment Inc.

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