
『テイルズ オブ』シリーズお馴染みのキャラクター、ストーリー、戦闘システムで懐かしくも新しいRPG体験を楽しめるスマートフォン向けアプリ「テイルズ オブ ザ レイズ」。
2017年2月28日のリリース以降多くの方々に愛され続け、2024年7月、約7年間という長い歴史の幕を閉じました。
本記事では、「テイルズ オブ ザ レイズ」開発メンバーが再集結。制作プロデューサーの栁澤 峻さん(通称:栁澤P)を中心に、リリース当初からサービス終了にいたるまで、数々のエピソードをお話しいただきました。
彼らがサービス終了間近まで本作に込めた“ある想い”とは?
応援してくださった皆様へ心からの感謝を込めて、開発メンバーからのメッセージをお届けいたします。


(写真上段左から)
栁澤 峻 制作プロデューサー
有働 龍郎 リードゲームデザイナー
武者 匡彦 アートディレクター
(写真下段左から)
宮田 直樹 ディレクター
山田 祐実 プロジェクトマネージャー
スマートフォンで楽しむRPG『テイルズ オブ ザ レイズ』誕生秘話
―はじめに、「テイルズ オブ ザ レイズ」誕生について聞かせてください。どのような背景から本作が生まれたのでしょうか?
栁澤:もともと当時『テイルズ オブ』シリーズの中でスマートフォン向けタイトルは「テイルズ オブ リンク」と「テイルズ オブ アスタリア」が配信されていました。
そんな状況の中、次にどういうスマートフォン向けタイトルを作ろうか、という話になりまして、「テイルズ オブ リンク」はパズル、「テイルズ オブ アスタリア」はカードのゲームだったので、スマホの性能も上がってきたしそろそろコンシューマータイトルのゲーム性に近いRPGを作っても良いんじゃないかと考えたんです。
そして、過去作のキャラクターが登場するいわゆる“オールスタータイトル”の代表的なものでいうと、「テイルズ オブ ザ ワールド レディアントマイソロジー(通称マイソロ)」というシリーズがあったのですが、スマートフォンで遊べるマイソロって絶対楽しいじゃん!という話を当時の自分の上司とバンダイナムコエンターテインメントの池野さん(通称:池野P)や他の皆様にご提案したところ、「いいね!」と言っていただけました。
そのような流れで生まれたのが、「テイルズ オブ ザ レイズ」です。

歴代キャラクターたちの背中を追う新たな主人公、イクスとミリーナ
栁澤:『テイルズ オブ』シリーズである以上ストーリーやキャラクターに凝る必要があるのですが、歴代のキャラクターたちって原作の中で既に成長していますよね。
じゃあ、シリーズのキーワードである成長をどうやって描いていくかと考えたときに、オリジナルの主人公が必要だと思いました。
そして歴代の主人公たちの背中を追いかけながら成長していくキャラクターとして生まれたのが、イクスとミリーナです。
実はタイトルも、まっすぐ成長していく=まっすぐな光という意味を持つ言葉「レイ」を取り入れているんですよ。


前代未聞の主人公交代!名前を覚えてもらえないイクスの大改造計画
―そのような意味がタイトルに込められているのですね!それでは、本作の主人公であるイクスについてもう少し詳しく聞かせてください。
栁澤:実はイクス、周りの歴代主人公やキャラクターたちの光が強かったからリリース当初はいつまでたってもユーザーの皆様に名前を覚えてもらえなかったんです。(笑)
ネタにされることもあって、もっと格好良いと言ってもらえる主人公にできればと思いましたね。
山田:そこから「イクス大改造計画」が始まりました。水着を着たときに前髪を作ってみたり…。
武者:他の衣装やイベントなどで強めの特徴を足していきました。
栁澤:色々とやってみたんですが、大本のところを変えなくてはダメだ!となり、思い切って一度イクスに休んでもらうことにしました。
主人公交代。前代未聞ですよね。(笑)
一方、ミリーナは当初からとても人気があったので、彼女を主人公として立てたのが第二部です。その裏では、イクスを再誕させるために頑張っていたんですよ。
新キャラクター・コーキスやウォーデンに施した工夫
―主人公イクスがいない「テイルズ オブ ザ レイズ」を運営する上でもさまざまな苦労があったのでは?
有働:イクスがお休みしている間、コーキスというキャラクターが新たにメインポジションになります。
彼はイクスと同じ技を使うのですが、イクスが戻ってきたら二人が同じ技を使うことになるので、両立させなくてはいけませんでした。
一見「同じデータを使っているのでは?」と思われるかもしれませんが、実は微妙に身長が違うんですよ。
そのように細かいところに違いをつけて、それぞれのキャラクターを際立たせる工夫を施しました。

武者:この二人に関しては開発チーム内で苦労した記憶があります。(笑)
山田:また、キャラクターに関する苦労といえば第四部で登場するウォーデンのデザインも完成にいたるまで迷走していました。
最初は短髪で少年らしさのあるデザインだったのですが、「皇族なのに小物感がある」と栁澤さんに一刀両断されてしまって、目が覚めましたね。
ウォーデンは序盤、イクスの体に入ってナーザと名乗っていたのですが、ビジュアル的にも人気のあるキャラクターだったので「本体が負けてどうする」、と。
ここで指摘をいただけたおかげで、ウォーデンは高貴で大人な格好良い男性になりました。


ユーザーの声が道しるべに…挑戦と改善が繰り返される運営型タイトル
―主人公交代の裏ではさまざまな苦労がなされていたんですね。そして第三部ではイクスが戻ってきましたが、ユーザーの反応はいかがでしたか?
山田:皆様により納得していただける主人公へと進化した感じがしましたね。
栁澤:ポジティブな反応を多くいただけました。

武者:主な変更点としては、パーツや髪型を「可愛い」から「格好良い」に移行していきました。
封印が解けて長髪になっていたり、垢抜けた印象になっていたりと段階を経てバージョンアップができたのは運営型タイトルならではだと思います。

栁澤:そういう意味ではこのタイトル、最初から狙って上手くいったということはなかったです。
運営型タイトルならではの、一度挑戦してみて上手くいかなければ次から次へと手を打ってどんどん良くしていくというやり方でした。
ユーザーに格好良い、可愛いと思ってもらうためにはどうすれば良いだろう?という点をずっと考え続けていました。
宮田:ユーザーの意見を聞いて都度調整していく、というやり方はコンシューマーゲームではできないことですよね。
栁澤:最終的に「テイルズ オブ ザ レイズ」はイクスとミリーナの物語だと認識してもらえて、大団円を迎えられました。
ようやく狙い通りになったなって。最初の路線のまま行っていたらこうはならなかったと思います。
武者:しっかりと成長を感じてもらえましたね。
『テイルズ オブ』シリーズ歴代キャラクターたちと向き合う難しさ
―「テイルズ オブ ザ レイズ」には歴代の『テイルズ オブ』シリーズキャラクターたちが登場します。数多くのキャラクターが登場するタイトルを運営される上で、特に大変だったことは何ですか?
有働:最終的に200人以上のキャラクターが登場したのですが、シリーズ独自の新しい機能を反映させつつ、それぞれの技を追加していく必要がありました。
個性をつけるにはどうすれば良いか、と試行錯誤した記憶があります。
栁澤:技ひとつひとつに価値がないといけないので、調整にはとても苦労されたと思います。
キャラクターが200人以上登場するゲーム、なかなか無いですから。(笑)


―数多くのキャラクターがいる中で、誰を登場させるかはどのように決まったのでしょうか?
栁澤:基本的にはエピソードに合わせて選んでいました。
例えば、夏だから海に行くイベントをやろうとなったときに、海にちなんだキャラクターだったり、「このメンバーで海にいたら楽しそうだよね」とか。テーマ性を重視していましたね。
あとはタイトルによって周年イベント中のキャラクターを取り上げたり、色々ありました。
今もう一度「テイルズ オブ ザ レイズ」の運営をしたら同じ順番、キャラクターは出ないと思います。
あの時、あの瞬間だからこそ選ばれたキャラクターたちでした。割とライブ感をもって出していましたね。
山田:もちろん「操作できたら面白いな」っていうキャラクターを入れることもありました。(笑)

『テイルズ オブ』シリーズの中で一番好きなキャラクターは?
―ちなみに『テイルズ オブ』シリーズの中で、開発チームの皆様が好きなキャラクターは誰ですか?
栁澤:「テイルズ オブ デスティニー」のスタン・エルロンです。
ポジティブ思考と元気さで周りを引っ張っていくザ・主人公という性格なんですけど、たまにシニカルな一面もある。
結構刺さることを言ったりするので、そのギャップが良いなと。
山田:私は同じ「テイルズ オブ デスティニー」のリオン・マグナスです。
このタイトルはオリジナル版とリメイク版があるんですが、オリジナル版だけのシーンでリオンが言うある一言に衝撃を受けて…キャラ背景も相まってリオンに心を持って行かれました。
おかげさまで、高課金者の仲間入りを果たしたわけです。(笑)

有働:私はバトルやボイスの台詞を考えることもあるんですが、「テイルズ オブ グレイセス」に特に強い思い入れがあります。
その中でもソフィは掛け合いの中でもボケに対して決してつっこまない、彼女ならではの味があるので好きですね。
武者:私は「テイルズ オブ シンフォニア」から開発に関わってきて、キャラクターモデルを担当することが多かったのですが、初めて作ったのがリーガル・ブライアンです。
やっぱり、思い入れが強いですね。
宮田:私はバトルシーンの中でよく感情が動くのですが、初めて友達の家で見て格好良いと思ったのが「テイルズ オブ エターニア」のリッド・ハーシェルです。
とにかく技が格好良い。何周もプレイして、技の色々な使い方を発見するのがとても楽しかったです。
―それぞれ違った観点でとても面白いですね!キャラクターへの深い愛が伝わってきます。
ユーザーの反応を知ることができないもどかしさ
―「テイルズ オブ ザ レイズ」を運営されている期間の中で、一番大変だったと思うことを教えてください。
栁澤:リリース後最初の一年間が一番しんどかったですね。
「テイルズ オブ ザ レイズ」はユーザーの皆様に育てていただき成長できたタイトルだと思っていて、最初は皆様とコミュニケーションが取れなかったのでお叱りを受けることが多かったです。
さまざまなお声に向き合いながら、ひたすら改善のために尽くす毎日でした。
運営型ならではの、課題の解決を繰り返すことでより良いものにしていく、という流れが固まりきるまでが大変でした。

栁澤:当初、このタイトルはイクスたちの成長物語をメインに考えていたのですが、しばらくしてユーザーの反応を見ているうちにどうやら期待されているのはそれだけではなく、自分たちがかつて触れた『テイルズ オブ』シリーズのキャラクターたちをもう一度見たいという想いが強いことに気付かされました。
ただ、今出会ったイクスたちと、長年好きという想いをあたためてきた歴代キャラクターたちとはやはり温度差があって、その差を埋めるには長い時間をかけなければいけないことを痛感したんです。
そのように、ユーザーの反応や、各イベントなどでのコミュニケーションを通じて何に喜んでくださるのかを探ることが出来ず、私たちの考えとのギャップを埋める事が出来ない期間が大変でしたね。
『テイルズ オブ ザ レイズ』最後のアップデートに懸けた想い
―約7年間という長い間、ユーザーから愛され続けてきた「テイルズ オブ ザ レイズ」。最後のアップデートにはどのような想いを込められたのでしょうか?
宮田:サービス終了と同時にオフライン版のアプリがリリースされるということで、コンセプトを「思い出を残し、振り返ることができる」としました。
クエストを進めたり、アイテムを使い育成する、といったことはあえて行えない仕様とし、サービス終了時の状況がいつでも手元で思い出せて、振り返ることができるという点を重視した形です。
何かやり残したことがあっても、それ自体が思い出の1つであって欲しい。という想いを込めました。

宮田:その分、サービス終了間近にはクエスト進行と育成を促すフィナーレキャンペーンを実施し、結果として終了発表前より多くの方にプレイしていただけたのは嬉しかったです。
キャンペーン中アイテムを配りすぎてしまったり、最終日にアクセス集中で重くなってしまったりと、最後の最後まで不手際をなくせなかったことはとても申し訳なく思っております…。
ただ、そのようなアクシデントも含めて「テイルズ オブ ザ レイズ」が皆様の心の中に思い出として強く残り続けてくれたら良いなと思っています。

山田:フィナーレキャンペーンといえば、宮田さんと一緒に計画を練りながら進めていたのですが、いざ施策が始まると栁澤さんから「これ、できない?」という急な無茶振りがたくさん入りましたね。(笑)
「スタンプ欲しいな」とか、「イラスト欲しいな」とか…「これ、スキット欲しくない?」もありましたね。
栁澤:サービス終了後はこれ以上追加することができないので、出来るだけ詰め込んでユーザーに楽しんでもらいたいという方に気持ちが向いてしまって。
有働:実は直前に色々と入れるというのは私も昔やっていたことだったので、「あー、この感じ懐かしいな」と思っていました。
逆に楽しかったですね。サービス終了が決まっているのに新しいキャラクターを追加したり。
山田:限られた時間と人の中でどうしたら実装できるか、試行錯誤しながら皆で考えましたね。
栁澤さんがユーザーを楽しませたいと思った上での発言というのは分かっていたので、さあ頑張ろうという気持ちでした。
栁澤Pからユーザーの皆様へのメッセージ
―「テイルズ オブ ザ レイズ」をプレイしてくださった方々へ、栁澤Pからメッセージをお願いいたします。
栁澤:約7年間、こんな運営にお付き合いいただき本当にありがとうございました。
もちろん反省すべきところは多々ありますが、何より、皆様にイクスたちの冒険を楽しんでいただけて良かったと思います。
皆様の思い出の中にある『テイルズ オブ』シリーズの作品やキャラクターを再び表に出して触っていただける、思い出を具現化するきっかけに本作がなったのであれば幸いです。
サービスは終了してしまいましたが、オフライン版では引き続きお手元の端末でいつでも会うことができます。
原作と併せて、楽しみ続けていただけたら良いなと思います。
引き続き『テイルズ オブ』シリーズをよろしくお願いいたします!
―貴重なお話、ありがとうございました!

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