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開発エピソード

『VR ZONE Project i Can』ができるまで(前編)

開発エピソード第2弾では、VR体験の先駆けとしてオープンしました「VR ZONE Project i Can」について、開発メンバーが実際の開発エピソードを前編/後編に分けてご紹介します。
今回ご紹介する『VR ZONE Project i Can』は、VR(バーチャルリアリティ)をはじめとした最新の技術と体感マシン開発技術をかけあわせることで、「やりたい!けど実際はムリ」という「夢・好奇心」を、ホンモノの体験として実現し、多くの人びとに驚き、楽しんでいただけるVRエンターテインメント研究施設です。

 

大森 靖(おおもりやすし)
インタビュアー
バンダイナムコスタジオ 執行役員

大森: 本日は『VR ZONE Project i Can』(以下、『VR ZONE』)について、お話を伺いたいと思います。バンダイナムコエンターテインメントが東京・台場にて期間限定(2016年4月15日~10月10日)で展開していた『VR ZONE』は、バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)が開発を担当しています。まず驚いたのが、一気にテーマパークを作ってしまおうかというくらいのアトラクションの多さと、その規模に反して準備と開発期間の短さです。しかも全てにおいて非常に完成度が高いと思いました。プロジェクト立ち上げ初期から様々な苦労があったようですが、改めて今日この場でお話を聞かせてください。

田宮: 「こういうものを作りたい」という施設のコンセプトやコンテンツのラインナップはバンダイナムコエンターテインメント側で企画しました。


田宮 幸春(たみや ゆきはる)
株式会社バンダイナムコエンターテインメント
『Project i Can』室長

石井雅: 田宮さんから、ハードウェアはすべてBNSで開発して欲しいという話を受け、複数のコンテンツを同時並行で開発しなければならないので、誰にどのコンテンツを担当してもらうか、走り出すための体制を整えるところが大変でした。

大森: そのような大変な状況の中、現場で開発された皆さんの雰囲気はどのような感じだったのでしょうか。「こんなスケジュールでは作れません!」という声もあがったのでは、と思いますが。(笑)

石井雅: 最初のプランでは、各コンテンツを今よりも簡素に仕上げる予定でしたので、現場では意外と気負いはありませんでした。しかし、作業を進めていくと「営業する上でそれはどうなの?」という声がいくつも出てきまして。


『VR ZONE Project i Can』

柿沢: 最初は試作機レベルでOK、装飾部品も要らないと言っていたのですが、そういった声が増えていくにつれて徐々にゴールが遠のいていくのを感じました。

限られた開発期間でも、製品クオリティは妥協したくない!

大森: 私も一通り体験しまして、各コンテンツのソフト、ハードともに非常に完成度が高く、製品レベルと言っても全く過言ではない出来栄えで非常に驚きました。少なくとも来てくださったお客様の目には、とても短期間で簡素に製作した物とは映らないはずです。

田宮: クオリティに関しては、BNSのインダストリアルデザイン(以下、ID)チームが心強かったことが非常に大きいです。開発期間の短さを考えると、筐体などは黒一色、配線むき出しでも仕方ないと考えていたのですが、それではダメだと提案してくれました。

酒井: 『VR ZONE』は、最新のデジタルコンテンツを集め、お客様に今まで体験したことのない事を楽しんでいただく施設ですから、「バンダイナムコグループが作るバーチャルリアリティ(以下、VR)ってこんな物か」と思われたくは無かったですからね。


酒井 剛史(さかい つよし)
インダストリアルデザイナー
『VR ZONE』デザインディレクター

筐体は「体験を提供する装置」をイメージし、わざとむき出しの可動機構を見せつつVRゴーグルと組み合わせることで、そこを通りがかったお客様に「なんだか凄そうな物があるぞ」「この中で一体何が行われているのだ?」と、一目でワクワク想像していただけるようにデザインしました。

大森: 個々のVRコンテンツの内容に対して、IDの立場から「ここはこうした方が良いのでは」と言うような提案はしましたか?

酒井: どのコンテンツも魅力的かつ完成度も高い内容だと思いましたので、基本的には「どういった体験ができる装置なのか」を伝えることに注力してバナーなどをデザインしました。

大森: 店舗のデザインもBNSが担当したのですよね?

酒井: はい。まず、既存のゲームセンターとは全く別の施設であるように見せることが大前提です。繰り返しになりますが、今までに無い全く新しい体験ができる施設であることを伝えなければなりません。また、多様なジャンルが揃っているコンテンツを、あくまで『VR ZONE』という1つのパッケージとして見てもらえるように意識しています。
各コンテンツの筐体、店舗、広告物などを全部まとめてトーン&マナーを統一し、ブランドとしてデザインできるのは、長年アーケードゲーム製品を開発してきたノウハウがあるからこそのアドバンテージだと思っています。

店舗内設置はまるでパズルのように複雑でした……

大森: 短期間でこれだけ多くのコンテンツを揃えるとなると、実際に施設へ筐体を設置するのも大変だったでしょう。その時の話も聞かせてもらえますか。『VR ZONE』のあった場所は、元々アミューズメント施設として使われていた場所では無い、いわゆる普通の店舗の跡地ですよね。ゲームセンターなどと違いますから、現場で置いてみたら……みたいな話はたくさんあると思うのですが、すんなり行きましたか?(笑)

一同: (笑)

福冨: まず、今回VRゴーグルはすべて『HTC Vive』※1(以下、Vive)を採用しましたが、個々のコンテンツで使用するViveの赤外線センサー同士が干渉してしまうのが問題でした。各筐体を一定以上の間隔を空けて設置しないと、干渉が原因と思われるポジション検出の不具合が発生することが事前にわかっていましたので。

田宮: コンテンツの安定稼働という面では全部壁などで囲われている方が安心なのですが、『VR ZONE』施設の見栄えとして、色々なコンテンツが外からでも中からでも広く見渡せたほうが魅力的です。そのせめぎあいの妥協点を探るため、皆さんには何度も検証をお願いしました。

福冨: 施設の候補場所が決まり、フロア図面を見ながら各々のセンサーが干渉しないような配置を考え、各筐体の設置場所を決めていきました。


福冨 保治(ふくとみ やすじ)
メカエンジニア
『VR ZONE』ハードウェアディレクター

現場でもセンサー位置の微調整を繰り返しましたが、決められたフロアレイアウトの中で、筐体同士のセンサーが干渉しない配置を決めるのは、まるでパズルのようでした。
運営が始まって、カメラのフラッシュやお客様の服装、荷物などでセンサーに影響が出ないか不安でしたが、そこは特に問題にはなりませんでした。

大森: 設置するのに一番苦労したのはどの筐体ですか?

田宮: 4月のオープン前で最も苦労したのは『スキーロデオ』※2ですが、期間途中で運営を開始した『マックスボルテージ』※3も大変でした。なにしろ営業期間内に、フロア内へ新しく防音室を作ったわけですから。


『スキーロデオ』

福冨: そうですね。最も大変だったのが、防音室用の壁材はとてもサイズが大きく、台車に載せたままでは普通のエレベーターよりも大きい搬入用のエレベーターでさえも乗らず、大勢で台車から降ろしてエレベーターへ載せ換え、3階に着いたらまた台車に載せ換えて、というのを何度も繰り返し、苦労しながら3階まで運びました。

大森: 苦労の甲斐はありましたね。あの防音効果はコンテンツの没入感を非常に高めていたと思いますよ。

バンダイナムコグループのアミューズメント技術だからこそ実現できたVR

大森: ハードは全てBNSで開発しましたが、これだけのタイトルを短期間で効率よく開発するための工夫などがありますよね。その辺りの話を聞かせてください。

石井雅: 各コンテンツともに、可能な限りの部品共用は最初から考えて進めました。


石井 雅尊(いしい まさたか)
電気エンジニア
『VR ZONE』『脱出病棟Ω』
ハードウェアディレクター

主要な部材はコストや現場で故障が発生した場合の対処し易さなどを考慮したものをあらかじめ選定、リスト化し、各コンテンツのハード開発担当者へ共有した上で作業に着手してもらうなど、徹底的に共用化を図りました。アーケードゲームの筐体開発では、常に意識して開発を進めていることですので、今回も特に違和感なく進められました。

福冨: 『スキーロデオ』は『アルペンレーサー』※4の機構部を流用して製作しました。古い製品ですので製作する台数分の中古筐体を市場で探すのに非常に苦労しまして、なんとか台数分をかき集めて製作することができました。

白井: ヘッドホンの選定にも苦労しました。筐体側と施設の都合や3Dサウンドの再生など、必要要件がとても多くて。加えて、臨場感を出すためには周囲の音は聞こえないほうが良い、しかし外からの声が聞こえないのは運営上都合が悪いという、相反する条件をどうクリアするかというところに相当悩みました。

大森: 確かに、運営スタッフからの声がお客様に伝わらないと困りますよね。

石井: 万が一の警報なども聞こえないとなると安全ではありません。サウンド担当者にも協力してもらい、要件を満たしかつ容易に入手できる機種を選びました。そうすることで、何かあったときの調達も容易です。

大森: 最初から「外からの音も聞こえないといけない」ってところまで配慮が行き届いているのが、バンダイナムコグループらしい話です。
ところで、故障発生時を考慮して部品を共用化したとのことですが、実際に運営中の故障はどのくらいありましたか?

田宮: もちろん故障は何件かありました。ですが運営上それが影響したことはありません。例えばヘッドホンが故障したとしても、バックヤードに同じ物がストックしてありますし、しかもどの筐体でも使っている物が同じですから即座に運営再開できました。効率は非常に良かったです。

大森: 普通は(開発に関わったことのない)運営のスタッフでは部品交換までは、できるものではないですよね。

田宮: 初めて発生した事象については、BNSのメンバーが出向いて調査、交換を行っていました。しかしそれもパターン化して経験値が蓄積され、そのうち運営スタッフのみで対応できるようになっていました。

大森: 部品交換しやすい作りになっているということですね。ハンダ付けなどしてあったら、運営スタッフでは対処しようがないわけですから。

福冨: それに加えて、我々の作業を見ているうちに(運営スタッフが)覚えてしまうのでしょうね。「こういう不具合が起こりそうでしたので、この部品を交換しておきました」といった報告を後でもらうこともありました。

大森: メンテナンスを考慮した開発や、現場のスタッフが部品交換の方法を学び取る姿勢など、バンダイナムコグループのアミューズメント製品開発や店舗運営など、様々なノウハウが生きていますね。

田宮: 世界に先駆けてVRコンテンツを集めた施設を作って運営するという目標に対しては、まず開発スピードが重要であり、店舗運営の経験が必要と考えておりました。その目標達成への最短の近道は、バンダイナムコグループ内で連携すること。その点については最初から確信を持って進めていました。

『装甲騎兵ボトムズ』の問題はパワー不足だった?

大森: それでは、各コンテンツについてのお話を伺いましょう。まずは『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』※5(以下、『装甲騎兵ボトムズ』)について聞かせて下さい。この可動筐体もかなり臨場感がありましたが、開発する上でどういった苦労がありましたか?


『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』

白井: 以前から「シートもコントローラーも込みで全部可動するVR用筐体」の研究も進めていまして、『装甲騎兵ボトムズ』はちょうどこの研究成果を流用する形で開発を進めることができましたので、試作までの開発はスムーズに行きました。ところが、『装甲騎兵ボトムズ』の試作筐体が完成してテストをしたところ、シリンダーのパワーが全く足りず機構が動かないことが判明しました。


白井 慶(しらい けい)
メカエンジニア
『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』『アーガイルシフト』などを担当

田宮: 最初にその報告を聞いたときは、「ああもう終わった……」と青ざめたのをはっきり覚えています。(笑)

白井: シリンダーの性能や、制御基板のファームウェアや回路まで見直して調べましたが、結局上物の機構が重すぎたのと重量バランスが悪かったことが原因とわかり、改良して無事動くようになりました。

大森: コンテンツの発表順ですと、『アーガイルシフト』※6が先で『装甲騎兵ボトムズ』は後でしたよね。しかし開発開始は『装甲騎兵ボトムズ』が先だったと聞いております。

白井: はい。『アーガイルシフト』は『装甲騎兵ボトムズ』の機構を流用して製作しましたので、『装甲騎兵ボトムズ』が難航したために、結果として『アーガイルシフト』が先に日の目を見たという経緯です。

柿沢: 『アーガイルシフト』にはペダルが無く、レバーも中央付近にあり、『装甲騎兵ボトムズ』に比べると軽くて重量物のバランスを取りやすかったことも、可働させる上ではプラスになりました

 

■『VR ZONE Project i Can』

【VR ZONE Project i Canとは】

株式会社バンダイナムコエンターテインメントが展開するプロジェクト、「Project i Can」から生まれた、VRエンターテインメント研究施設です。VRをはじめとした最新の技術と体感マシン開発技術をかけあわせることで、「やりたい!けど実際はムリ」という「夢・好奇心」を、ホンモノの体験として実現し、多くの人びとに驚き、楽しんでいただける新しいエンターテインメントの提供を目指すというプロジェクトのメッセージを体現すべく、2016年4月15日~10月中旬までの期間限定で営業を行っています。今後も体験いただいたお客様からのご意見を活かしながら、さらなるVRの可能性を追求していきます。
http://www.namco.co.jp/company/NEWS/others_facility/20160707_1000_C1211.html

○『VR ZONE Project i Can』公式Webサイト
https://project-ican.com/

○『VR ZONE Project i Can』公式Twitterアカウント
https://twitter.com/project_ican

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