インタビュー

#01 吹き抜けでなくても設置できる! ~複数のプロジェクター映像のつなぎ合わせ技術

「屋内砂浜 海の子」で使用されているプロジェクター

プロジェクターは映像をスクリーンに映す装置です。「1枚の平面に映す」というのが普通の使い方ですが、アミューズメント用途では、プロジェクターは1台とは限らず、スクリーンは平面とは限りません。
テクニカルな使い方をするには、プロジェクターの性質を良く知った上で、様々な工夫をする必要があります。

空間設計

「屋内砂浜 海の子」では、約6.5m×4.5mの砂面に、天井部分に設置したプロジェクターから投影しています。これだけ広いと、業務用の大型プロジェクターでかなり高い位置から投影する形式が多いようですが、それでは設置できる場所が限られてしまいます。今回は、標準的なショッピングセンターの天井高(3.5m程度)でも実施したいという要望があって、比較的投影距離の短い普及価格帯のプロジェクターを8台並べた構成を提案しました。複数のプロジェクターを並べるような設計をしたのは初めてでしたが、先輩方からの助言もありまして、現在の配置が決定しました。

石井 源久(いしいもとなが)
エンジニア
1999年にナムコ(当時)に入社。
立体視ディスプレイの基礎研究、内製ミドルウェアの開発メンバーなどを経て、現在はプロジェクター、ドームスクリーン、Kinect※1センサーなどを活用したゲームの空間設計や原理試作のプログラミングを多く行っています。

ブレンディングのためのマップ化

業務用の大型プロジェクターには映像のつなぎ目を自動でブレンディングする仕組みが実装されています。しかし今回は普及価格帯のプロジェクターを使うことにしたので、その仕組みがありません。これについて私は、「それほど精度が高くなくて良ければ、ピクセルシェーダの仕組みだけでできるだろう」と考えていました。高価な機材を使わずに実現することが、多くの方に気軽に楽しんでいただけることにつながります。そういったことをプロジェクトのメンバーに話しているうちに、いつの間にか「つなぎ目部分は石井が何とかしてくれるらしい」という雰囲気になっており、他の選択肢が無くなっていました。そこでオープンの3か月ほど前から、ブレンディングの原理試作を開始しました。

2台のプロジェクターで同じ映像を映すときに、例えば入力値を50%ずつに設定して重ねると、その部分は100%より明るくなってしまいます(暗くなる場合もあります)。これはいわゆる「ガンマ補正」により、明るさが補正された結果、指定した割合よりも明るく出力されるためです。入力値を50%にするのでなく、補正された結果が50%になるように、入力値を逆算しなくてはならないのです。
さらに、「純粋なガンマ補正」は単純な数式ですが、実際のプロジェクターの補正は「カスタムガンマ補正」と呼ばれ、より複雑な曲線をしています。この曲線を求めるため、プロジェクターの明るさを少しずつ変えるプログラムを作成し、照度計で実測しました。これを元に「どれだけの入力値を何%の割合で出力したいときに、入力値をいくらにすればよいか」をあらかじめ計算してマップ化するプログラムを組み、このマップをピクセルシェーダで参照することで、補正がキャンセルされるようにしました。これと、各プロジェクターからの寄与率の合計が100%になるように設定した「ブレンディングマップ」の併用により、正しい色で出力できるようになっています。

ブレンディングの調整

ブレンディングの調整の様子。プロジェクターの向きを手調整した結果を計測している。

「屋内砂浜 海の子」が最初にオープンした、ららぽーと海老名内のナムコ・あそびパークPLUSにおいては、調整の仕組みがハード側でもソフト側でも未完成な状態であり、プロジェクターの方向・位置合わせには大変な苦労を要しました。その後、スタッフの努力と工夫により、プロジェクターの向きを調整しやすい台座が開発され、ゲームアプリのテストモードに便利な機能が徐々に追加されていった結果、現在は調整手順が確立できています。理論的にはハード側でもソフト側でも調整はできますが、実際にやってみるとどちらか片方だけの仕組みでは不十分であり、「どちらでもできるようにしておいて、両方から追い込んでいく」という考え方が必要であることを実感しました。
実際の手順としては、まず目印となるテープやペグを、計測しつつ設置します。それに合わせてプロジェクターの向きを調整します。調整結果は完全に目印通りにはならないので、改めて計測します。これを元に計算したデータをゲームアプリに入力するとほぼ合った状態になります。さらにテストモードで微調整します。

関連事例

本社受付で働く「受付小町」。プロジェクションマッピングが動きに追従するようになっている。

上記の「ブレンディングのためのマップ化」は、歪み補正のテクニックの一つである「UVマップ」の考え方がベースになっています。UVマップとは、「普通に描画した画像から、どの位置のピクセルを拾ってくるか」をあらかじめ記載したマップのことです。私はドームスクリーンにおけるUVマップの作り方を2011年末に学んだ後、ドームスクリーンゲームの歪み補正を担当することになりました。いくつかの製品が連続して出ましたが、シートやプロジェクターの位置、ドーム形状等のパラメータは少しずつ違っていたため、パラメータを変えてもUVマップをすぐ作り直すことができるツールを作って対応しました。
いくつもUVマップを作っているうちに、「UVマップ自体をリアルタイムに描き変えることもできる」ことに気付き、試作を続けました。本社受付の「受付小町」のリニューアルにおいてその成果を発揮する機会が訪れ、UVマップを毎フレーム描き変えることで動きに追従できるプロジェクションマッピングの処理を、普通のノートPC1台で実現することができました。「屋内砂浜 海の子」では、ゲームの最中にUVマップを描き変えるということは行っていませんが、テストモード時にその場で調整して描き変えることができるように実装してもらいました。

採用実績

  • 複数のプロジェクターの合成:「屋内砂浜 海の子」
  • UVマップのリアルタイム描き換え:「屋内砂浜 海の子」(テストモード時のみ)、「受付小町プロジェクションマッピング」
  • UVマップによるドームスクリーンの歪み補正:「マッハストーム※2」「ロストランドアドベンチャー※3」

※1 キネクト, Kinect は米国Microsoft Corporation および/または その関連会社の商標です。
※2、※3 株式会社バンダイナムコエンターテインメントの製品です。

ページトップへ戻る ページトップへ戻る