「屋内砂浜 海の子」ができるまで (後編)

*『屋内砂浜 海の子』は株式会社バンダイナムコエンターテインメントの製品です。

「屋内砂浜 海の子」ができるまで(前編)に続き、今回も「屋内砂浜 海の子」の開発エピソードをお届けします。
*前編の内容はこちらから>>>「屋内砂浜 海の子」ができるまで(前編)


■大森 靖(おおもりやすし)
インタビュアー
バンダイナムコスタジオ 執行役員

大森: 映像についてもお聞きしたいです。砂の色は映像表現する上で、重要だったのですか?

リアルな海を目指すと、リアルに見えない!?

矢野尾: はい。最初は砂の色も含めて全て映像投影してみたのですが、色が重なりあい過ぎて汚い印象になってしまいまして。砂の色はそのまま活かして、海面や魚などの映像を作ることにしました。海面については、水を透明に設定して表現してみましたが、かえって海っぽく見えないことがわかりました。結果的に、少し色味を付けた方が印象は良かったです。

高橋(徹): ビジュアルの基本方針としてはリアリティ重視なのですけど、プロジェクターで砂の上に投影した場合、マジメにリアル過ぎると何がなんだかわからない映像になりそうでした。そこで、リアルとイラスト的表現の中間で良い落とし所を探りました。

大森: プロジェクターって、本来は周囲を暗くして、暗い場所に明るく投影するものですからね。

矢野尾: 実は、現地に行くまで、直接砂の上に投影した様子を見ることができなかったのです。で、いざ現地に行って試してみると「これは大変だ」と思いました。

●矢野尾 雅俊(やのおまさとし)
リードアーチスト
ビジュアル全般の統括を担当。

大森: そうなのですか! では、現地で色合せしたってことですか?

矢野尾: いいえ、現地では調整作業をすることができなかったので、(会社の)試作室に砂を撒いて検証しました。砂を1トンくらい運び込みましたが、冷房が効かなくて汗だくになったことを覚えています。(笑)

大森: この製品に限らずですが、様々な事を同時に作り上げていかないと完成に辿りつけないですよね。完成イメージの共有ですとか、その辺りの話を聞かせてもらえますか? 

高橋(徹): ビジュアルについては、「南国の海」というコンセプトからはブレなかったので、全体のイメージが大きく戻ることはなかったです。

本山: 開発期間が5ヶ月しかなく、現地で完成形が見えるまでの間、バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)、ナムコとの完成イメージの共有は難しかったです。しかし、BNEもナムコもコンテンツの内容に関して、こちらを信じて全面的に任せてくださいました。おかげで我々は開発に集中できました。

高橋(徹): 一方で、ナムコからの提案で、助けられたところも非常に多かったです。例えば、「壁面に外から覗ける穴をいくつか設けたい」と提案いただいた時には、こちらとしては光が入ってしまうので非常に悩ましかった。ところが実際にオープンしてお客様が近くを通るような状況になると、その穴からお客様が「なんだなんだ」という感じで覗いてくれる。

大森: あ、なるほど! 偶然、通りすがりのお客様が見てくれるのですね。

高橋(徹): そうです。家族連れだけでなく、カップルや若い友人グループ、ご年配の方々まで、足を止めてジーっと見てくれました。実際の海を目の前にして佇んでいるのと似たような様子で。集客面で、ものすごく効果的でした。

大森: 子ども以外のお客様に向けての仕掛けを考える上で、ヒントになりそうですね。元々、本山さんが「足で踏んだ時のひんやり感が子どもに受け入れられるのではないか」と考えたわけですが、そもそも、その体感自体は本山さん自身が得たものですからね。我々のような大人であっても、同じように楽しめると思いますよ。

本山: 全くその通りだと思います。

変幻自在の音響効果!?VSSSのここがスゴい!

本山: 環境の演出、というテーマにとっては、サウンドの効果も非常に大きかったと思います。そしてVSSS」※1があったからこそ、5ヶ月の開発期間でのオープンが可能でした。

※1:VSSS(Virtual SoundScape System)
=BNSで開発したインタラクティブ(双方向、相互作用)音響演出システム。
「VSSS」の詳細は「てくラボ」にてご紹介しております>>> 「#03 ゲームの音空間をリアルワールドで体感!~インタラクティブ音響演出システム「VSSS」が目指す先」

髙橋(み): 「VSSS」は、2012年の後半頃から、将来を見越して研究着手したツールです。ある程度実用化の目処が立った頃、バンダイナムコグループ各社に売り込みをかけまして、そこで『屋内砂浜 海の子』プロジェクトの話と巡り逢いました。

本山: 最初は我々も、音響効果に高いコストをかける成果を私の説明でBNEとナムコに伝えられるか、確信が持てませんでした。そこで、BNEとナムコにデモンストレーションを体感していただくことにしました。

髙橋(み): 一般的に、お店のスピーカーは天井に取り付けてあることが多いのですが、頭の上から波の音が聴こえるのは違和感がありますよね、波は足元で砕けるものだし鳥は空でさえずりますよね、引き潮と満ち潮では波が砕ける場所が変わりますよね……というように段階的に再生スピーカーの数を増やしていって、最後に8チャンネルを体感していただきまして。結果、即決でした。「もう、これしかないですね」と。

●髙橋 みなも(たかはしみなも)
サウンドリーダー
インタラクティブ音響演出システム「VSSS」開発を担当

大森: 研究はやっておくものですね……と言うと簡単ですけど、やはり着眼点が素晴らしかったのでしょうね。

髙橋(み): 「VSSS」で行くと決まったところで、実際の沖縄の海の音を収録する計画を立てました。一口に海の音を収録すると言っても、ただマイクを担いで近場の海に行けばよいというわけではありません。望む音が収録できる場所探し、機材の選定、現地の環境と理想の時間帯、事前に綿密な計画を練っておかなければいけません。

今回はかなり理想に近い場所が見つかったのと、実際に現地に行った収録チームが寝る時間も惜しんで頑張ってくれたおかげで、他に替えの効かない音源になりましたよ。

高橋(徹): 近場の海で採取した音と現地の音、聞き比べてみると違いは明らかで、我々も驚いたくらいです。

髙橋(み): それから、当然の事ながらアウトプット……アンプやスピーカーなどの再生機器も非常に重要です。せっかく収録してきた波の音を余すところなく再生できる性能が求められる一方で、設計や内装工事上の制約もクリアしなければなりませんので、機器選びは大変でした。しかし最終的には、理想的な再生システムが構築できたと思います。

大森: 音響の素晴らしさって、実際その場で体感しないと価値がわからないのが難しいですよね。一度その音を聞いてしまうと、前の環境には戻れないくらいのチカラがあるのに。

髙橋(み): 音響演出は映像演出と違って目で確かめることができません。文章や言葉だけではその価値を伝えきれないのがもどかしいですね。ということで、皆さんも、ぜひ『屋内砂浜 海の子』に来て体験していただきたいです。

木でもシリコンでも無く、紙こそが、問題解決の救世主だった!

大森: (テーブルの上に並んだ様々な「魚をすくう皿」を見ながら)こうして見ると、「お皿」についても色々あったようですね。

本山: はい、これについても紆余曲折ありまして。最初は木製のお椀型のお皿でしたが、これは想定していたより耐久性に不安があることが分かりました。

渡辺: 木製はコストについても懸念点として上がっていましたので、引き続き別の素材を使うことを検討し、ぎりぎりのタイミングで別の案で行こうと決めました。

本山: 皆で色々考えまして、紙皿を重ねて貼り付け、外縁部分を黒く塗った物を使ってみることにしました。これなら軽いし割れる心配も無く、コスト面でも優位。試用してみると、耐久性も問題無く、「これで行けそうだ」ということになりました。この試作品を経て、今の紙製のお皿に落ち着いたのです。

高橋(徹): 実は、ロケーション現場では「魚のすくい方を子どもに教える上手い方法はないか」ということに苦慮していたようです。紙であれば、その裏側に「魚のすくい方」の図解を載せられます。紙製のお皿は、問題を一挙に解決するアイディアでした。

大森: なるほど! それだけ聞くと、「最初からそれで良かったのでは」って思いますね。(笑)

渡辺: その後、シリコン製も試しましたが、あまり使い勝手が良くありませんでした。使っている内に表面に砂がついて取れなくて、その砂がマーカーの検出時に邪魔になるのも問題でした。

本山: 一方、紙製だと砂はくっ付かずにすぐ落ちます。結局、紙が最高ということに落ち着きました。

大森: このお皿は配布物では無いのですよね? プロモーションに絡めたアイディアが閃きそう。持って帰ってもらえば、お客さまにとっては思い出になるし、リピーターにも繋がるかもしれない。色々な意味でベストではないですか。

新バージョンがお目見えします!

大森: 近々、新しくラゾーナ川崎にもオープン※2するそうですね。

※2=2016年7月22日(金)オープン、運営中

高橋(徹): はい。実はラゾーナ川崎の物が初のVer.1.00となります。今、海老名などで営業しているのはスタンダードver.と呼ばれています。今後は仕向地のオーダーによって、2つのバージョンを用意することになっています。

大森: お客様からの人気度合いなどは調べたのですか?

高橋(徹): 海老名でのオープン初期に、お客様にアンケート調査を実施したところ、「あそびパークPLUS」の中ではダントツの一番人気だったと聞いております。店舗の方からも非常に好意的な感想をいただきました。

本山: 想定以上のお客様に来ていただけたとの報告もありました。おかげさまで、日本全国だけでなく海外からも、店舗運営の担当者が海老名へ視察にいらしていると聞いています。

大森: 新しい、Ver.1.00というのは何が違うのでしょうか?

小林: 壁面投影用にプロジェクターを追加しているのが大きな違いです。子どもたちが壁面に近づいても影がなるべく映らないように、別タイプのプロジェクターを採用しています。

●小林 威晴(こばやしたけはる)
エンジニア
ハードウェア全般の統括を担当

渡辺: 魚の動きについてですが、スタンダードver.では(別のPCで制御している)映像に移動する際、一度海中に潜って見えなくなっていました。最新のVer.1.00では切れ目なく、海面全体で動きます。

本山: 波の動き、大きな魚、魚の回遊、全部同期が取れているのは、遊びの上で非常に重要なことです。例えば、海面の一部の狭い範囲で魚を追いかけるのと、海面全体でそれができるのとでは大違いです。(海面全体を)切れ目なく魚が泳いでいると、魚はすぐには消えないので、子どもが一生懸命になって魚を追いかけられる。

渡辺: 今は非常に広範囲で魚を追い回せて、より楽しめるようになったと思います。

今後の夢を聞かせて下さい!

大森: 今考えている改善点とか、今後の展望などはありますか?

高橋(徹): Ver.1.00では、壁面投影で海の解放感を向上できたことが大きいのですが、海面に大きなクジラが出てくる、というところも非常にポイントが高いと思っています。一口に「海に行く」と言っても、子どもでも大人でも、クジラに巡りあう機会はそうそうありませんよね。これが今後に向けての1つのヒントになるのではないかと。「砂浜遊びが、手軽にできます」だけではなく、「こんなことが出来たらいいな」を実現できる可能性の広がりを感じています。

あと、残念ながら実際の海と比べれば、どう考えても小さい。(笑)ですので、機会があれば大きなロケーションに設置してみたいと思っています。

本山: 『屋内砂浜 海の子』は環境演出装置として非常に機能しておりまして、バーチャルリアリティで子どもでも気軽に海の中に入る体験できるコンテンツです。観察すると、子どもって、本当に海の中に居るみたいに振る舞ってくれる。泳いでみたり、浸かってみたりとか。

髙橋(み): 魚を砂ごとすくいあげるとか……。実際に子どもが入ってくれないとわからないことが本当に多かったです。

本山: 目で見る映像だけでなく、波の音による聴覚の刺激、ひんやりした砂を裸足で踏む感触、魚をすくう皿など、実際に触れられる現物を使うことで、海遊びのリアリティをぐっと高めていくことが非常に効果的なのだなと思いました。ここをもっと広げることによって、子ども向けのバーチャルリアリティコンテンツとして発展させていきたいです。

矢野尾: やはり、砂には助けられましたね。砂が冷たいので、水の中に足を入れた感じがすごく伝わる。

本山: まさにそこで、コンテンツの中に入った時の最初の一歩が、リアルな体験と身体にリンクするのだと思います。大人でも、「あ、海だ! 冷たくて気持ちいい~!」と言ってくれるくらいに効果的でした。

大森: それはまさしく、現地で体感するしかありませんね!(笑)
みなさん、今日は本当にありがとうございました。


『屋内砂浜 海の子』

○株式会社バンダイナムコエンターテインメント(事業展開) プレスリリース
http://www.bandainamco.co.jp/cgi-bin/releases/index.cgi/file/view/5072?entry_id=4637

○株式会社ナムコ(アミューズメント施設展開) プレスリリース
http://www.namco.co.jp/company/NEWS/game_center/20160601_1100.html

今回登場したVSSSの技術につきましては、弊社技術紹介ページ「てくラボ」に記事を掲載しております。是非ご覧ください。